近年増加している犬のIBD (炎症性腸疾患)。最初は効果の出ていたステロイドが、やがて効かなくなるケースが少なくありません。この時いったい、何が起きているのでしょうか? 腸内細菌の視点から記述します。
IBD の犬の腸内で起きている事

そもそもIBDとは?
炎症による腸の疾患
IBDは、日本語では炎症性腸疾患のことを指します。これは病名ではなく、炎症によって起きる慢性の腸疾患を指す総称です。人間の場合、一般的には潰瘍性大腸炎とクローン病の2つを指しますが、定義や診断基準は曖昧とされています。
犬の場合は..?
犬の場合、人間よりもさらに定義が曖昧で、原因不明の消化器トラブルがひとまとめに「IBD疑い」とされる傾向も見られます。
一般論として、IBDの原因は不明とされています。一方で、近年の研究においては腸内細菌の深い関与はもはや疑いようもなく、関与する具体的な細菌種も複数種が特定されています。
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IBDの犬の腸内
複数のパターンがある
Foremaでは、IBDの犬の腸内細菌を多数解析してきた実績があります。その中で分かってきたのは、IBD個体の腸内細菌組成は少なくとも8〜10パターンはある ということです。
それぞれが非常に特徴的なもので、明らかに健常個体とは異なっています。そして、パターンが違うということは、それぞれが異なる疾患という可能性を示唆しています。(IBDは総称のため、複数の疾患が含まれるのは自然)
共通項目は炎症
様々な腸内細菌パターンを見せる犬のIBDも、共通するのは慢性の炎症で、それが鎮静せずに宿主の健康に影響を及ぼしています。アルブミンの低下に至る個体もいれば、腎臓や肝臓の数値の悪化につながる個体もいます。
ステロイドの役割

炎症を鎮める
原因を取り除くわけではない
ステロイドは炎症を鎮めるお薬です。よく効くため、炎症性のトラブルはすぐに鎮静します。ただし、炎症の原因を取り除くわけではないので、「なぜ炎症が起きていたのか?」については全く解決に至りません。
誤認すると危ない!?
ステロイドは一時的に症状を見えなくしているだけの応急処置ですが、「投薬ですぐに治った」と誤認することで、後日のトラブルにつながる事例にしばしば出会います。(Forema ラボでの解析事例より)
効かない日がやってくる
水面下で進行する
ステロイドは一時的に症状を見えなくします。その間に問題の根本も解決すれば良いのですが、そうならなかった場合に、トラブルの根本が静かに進行してしまう可能性があります。
腸内細菌レベルでは、例えば炎症を促進する細菌群の増加が進む事で、ある時ついにステロイドが効かなくなります。
「ある日突然..」ではない
飼い主さん目線だと、ある日突然不具合が再発したように見えるものです。が、現実としては「見えなくしていたものが、抑えきれず再び表面化した」というのが実情と言えます。
尚、ステロイドには、糖尿病や潰瘍、うつなどの副作用がありますが、このとき脳の白質が減少していることが報告されています。(2022.9 オランダ ライデン大学医療センター)
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何をするべきか

前もって本質を突き詰めておく
ステロイドを処方された時点で、「その不具合はなぜ起きてしまったのか?」を追求する事は重要です。
「原因不明」と言われてきたIBDでも、腸内細菌の関与はほぼ間違いなく、腸内細菌解析によって今何が起きているのかを把握する事は重要なプロセスと言えます。
炎症が、感染症がきっかけなのであれば抗生物質の”適切な”投与は重要かもしれません。
一方で、腸内細菌のバランス崩壊によって不具合が起きているのであれば、投薬ではなくプロバイオティクスやプレバイオティクス、そして日々の生活から不要/有害な成分を除去していく選択が重要と考えられます。
回復について
ステロイドが効かなくなり、アルブミンの数値も大きく低下し、その段階で腸内細菌の解析の依頼をいただく事例が少なくありません。
この場合、ずっと以前にターニングポイントを超えてしまっていることが大半です。
この段階で整腸に尽力しても間に合わないことが多いため、ステロイドの投与が始まったタイミングで、根本の問題を追及することが不可欠です。
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