犬と猫の皮膚と腸内の話

犬の腸と皮膚,腸とメンタル

お腹の弱い個体はしばしば皮膚トラブルを併発します。

お腹の弱い個体はしばしば分離不安を併発します。

この時何が起きているのでしょうか?

腸内の炎症は皮膚の炎症?

腸の炎症と皮膚の炎症 犬と猫

腸内細菌と炎症性サイトカイン

腸内細菌のバランスが崩れると炎症性物質(※)の過剰放出につながります。ここに関与するプレーヤーやパラメーターは膨大なため、メカニズムは複雑ですが、「一部の腸内細菌の過剰な増加は炎症促進に直結」します。※炎症サイトカイン

腸内細菌たちのバランス悪化によって過剰に発現した炎症性サイトカインは、全身をめぐり表皮の痒みを誘発します。

腸内の炎症(下痢や軟便)と皮膚の炎症(腫れや痒み)は、場所は違えど同じ背景の元に同じ出来事が起きていると考えることができます。

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皮膚は最大の臓器

皮膚は最大の臓器とも呼ばれます。人間の場合、体重の10~15%を占めるとされています。よって、腸内に異変があったとき、最も影響が目立つ部分と言えます。逆に言うと、見えないだけで目立たない部分にも影響が起きている可能性が指摘できます。

事実、皮膚トラブルのある個体は、一見無関係な尿毒素や胆汁酸に関連する不具合がしばしば見られるほか、尿路結石などのリスクも増加している可能性があります。

例えば、尿路感染症に関連するウレアーゼ産生菌らは皮膚トラブルの個体で増加している事例が多いほか、尿毒素に関連するフェノールやpクレゾールを産生する細菌たちにも同様の傾向があります。

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皮膚の生態系

腸内の炎症は表皮の細菌組成を乱します。マラセチアをはじめとする一部の真菌や、黄色ブドウ球菌といった細菌たちは、表皮生態系の混乱に乗じて数を増やし、アトピー性皮膚炎などの増悪要因となります。

重要なのは、これら増悪要因も、本来であれば常在菌であり、正常な生態系の一部ということです。生態系の異変こそが問題の本質であり、その上流に腸内の異変が存在します。

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表皮の常在菌:補足

表皮で一般的に見られる常在菌として、無害な「表皮ブドウ球菌」がいます。どこにでもおり、一見たいした事なさそうな存在ですが、これらに異変が起きると、近縁の「黄色ブドウ球菌」らが暴走しはじめます。

ここでは話を単純に書きましたが、実際にはもっと多くのプレーヤーが存在し、それらが絶妙なバランスで生態系を維持しています。

生態系が健全である限り、「黄色ブドウ球菌」もただの常在菌であり、真菌たちも悪さをせず、また通りがかりで出会った様々な病原体を表皮のバリアがしっかり防除します。

ところが、腸内に異変が起きると、こうした防御網が破綻し始めます。腸と皮膚はつながっているのです。

尚、堅牢な表皮の防衛網は、生誕時に母親の産道を通るところから始まり、母親の皮膚、母乳を通じて少しずつ形成されていきます。

フレンチブルドッグが皮膚が弱いのは、「そういう犬種」なのではなく、帝王切開によって細菌授受の機会を奪われ、その後もリカバリーの機会を得られなかった点が本質といえます。(手術前後の抗生物質投薬の蓄積も非常に大きな負荷)

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炎症は脳にも伝わる

犬の姿

腸脳相関

腸内の炎症物質は血流や迷走神経を通じて脳にも到達します。

アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経系の不具合は脳内の炎症が大きな要因ですが、そのさらに上流に腸内の炎症物質、そして腸内細菌たちの異変が存在します。

腸と脳の密接な関係は「腸脳相関」として知られており、私たちや動物たちの臓器が個別の存在ではないことがよく分かります。

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脳のバリアを突破する

かつて脳は完全に守られていると考えられていました。血液脳関門(BBB)というバリアがあるからです。脳腫瘍ので抗がん剤治療に難航する理由の1つとして、BBBが薬剤の浸透を妨げるという理由があります。

ところが、一部の病原性細菌は脳内に到達するほか、腸内や口腔の炎症物質が脳内に到達している事が近年の研究で分かっています。

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歯周病菌も突破する

脳の問題で腸と同様に重要なのが口腔です。

アルツハイマー病の患者の脳内では複数の歯周病菌が検出されており、脳に近い口腔という場所が、認知やメンタルに大きな影響を及ぼす事が分かっています。

政府が国をあげて歯科検診をプッシュしているのは、歯科医師会の利権云々ではありません。口腔ケアが痴呆を減らし、国家財政の破綻を防ぎ、ヤングケアラーを減らすことに対して非常に重要な選択だからです。

尚、歯周病は完治しない感染症ですが、腸内をケアすることで歯肉の腫れが引く、口臭が弱まるといった事例はしばしば見られます。整腸による自然免疫の強化が影響していると考えられます。整腸が間接的に口腔の治安を維持し、結果的に脳を守っているようです。

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メンタル~神経系のトラブル

分離不安や行動障害

アルツハイマー病やパーキンソン病(※後述)は何年もかけて発症に至りますが、もっと軽微な異変として「うつ」や「不安」「行動のトラブル」があります。犬であれば分離不安や、過度の攻撃性(=恐怖心)などが分かりやすい例です。

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炎症と引きこもり

腸内の炎症のみならず、怪我や歯肉炎、感染症など、ひどい炎症はうつ症状を引き起こします。これは群れから離れ、活動をやめる事で回復を早めるという太古からの生存戦略の名残と考えられます。(群れも感染症から守られる)

ただし、現代社会においてはこれらはマイナスに作用しがちであり、しかも延々と終わりの見えない不安や鬱は、生活において巨大な負荷となります。

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パーキンソン病 補足

パーキンソン病の患者は、発症の10年前には既に腸内に異変が起きていることが報告されています。

神経系の疾患では類似の研究報告がしばしば見られ、疾患と発症の概念が大きく覆る可能性があります。

発症してから手を尽くそうとするから高度で高額で難度の高い治療が必要とされますが、ずっと過去の初期の段階で対処が可能になるのであれば、もっと違った未来が見えてくるのではないでしょうか?

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トラブルの本質は何か

犬と猫の炎症の話

終わらない炎症が問題の本質

炎症そのものは正常な防衛機能です。一時的に鬱や痒みが出たとしても、やがては回復していくはずです。

ところが、そうなっていません。

消化器/皮膚/メンタルなどに課題のある個体は、炎症が延々と継続し続ける点に問題の本質あります。

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なぜ終わらない?

炎症が終わらないのは、腸内細菌のバランス崩壊によって誤った信号が放出され続けているからです。

ステロイドで症状を消したとしても、炎症を促すシグナルは発し続けられているため、根本の解決にはなりません。免疫抑制剤も同様です。

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腸内細菌のシグナル

腸内細菌のいくつかの種類は免疫の促進や抑制に関与しており、それらの増減が炎症と鎮静に直接的に影響を及ぼします。

特定の細菌グループが放出するリポ多糖や菌体外毒素(エンドトキシン)、内包する毒素(エンテロトキシン)、菌体外の小胞などがシグナルとなって炎症を促進したり、腸粘膜の異変を誘発し、大事故に発展する場合があります。

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多くは常在菌

ここに関与する細菌たちは、普段はおとなしい常在菌であることが大半で、善玉/悪玉という単純化された枠組みの外側にいる無名の存在が多く含まれます。

これらが暴走するのは、個別に悪役なのではなく、バランスが崩れた結果として暴走に至り、腸内の炎症~皮膚や脳などの遠隔臓器への悪影響~将来的には疾患、という大枠の流れがあります。

善玉/悪玉という単純化は本質を見誤らせる危うさがあります。

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シンバイオティクス

ここまで様々な事象を列記してきましたが、暗鬱な気分になってしまう人もいるでしょう。

が、本質はシンプルです。

腸内細菌のバランス崩壊を食い止め、腸内の生態系の復元を。ここではシンバイオティクスが有効な選択肢となります。

シンバイオティクス = プロバイオティクス + プレバイオティクス

犬の腸と皮膚,腸とメンタル まとめ

  1. 腸内細菌の異変は皮膚や脳に影響する
  2. 皮膚や脳のトラブルには炎症性物質が関与
  3. 腸内の炎症抑制が重要シンバイオティクスが鍵

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