犬の蛋白漏出性腸症の話

犬の蛋白漏出性腸症の話

近年、愛犬が動物病院で蛋白漏出性腸症と診断される事例が増えているようです。ステロイドで対処するも、やがて効かなくなる事例も少なくありません。何が起きているのでしょうか?

蛋白漏出性腸症(たんぱくろうしゅつせいちょうしょう)とは?

犬と蛋白漏出性腸症

総称である

蛋白漏出性腸症(PLE)とは、腸管から血液中のタンパク質(特にアルブミンなど)が異常に喪失されることによって、低タンパク血症や浮腫(むくみ)などの症状を引き起こす状態です。一つの病名というより症状であり、さまざまな疾患や病態によって二次的に起こります。

なぜ起こる?

蛋白漏出性腸症の背景として、以下の3つの病態が関係します。

1.腸粘膜の損傷:

  • 炎症性腸疾患(IBD:クローン病や潰瘍性大腸炎など)
  • 感染性腸炎
  • 薬剤などによる腸障害

結果として腸のバリア機能が破綻し、漏出につながります。

2. 腸リンパ管の異常:

  • 腸リンパ管拡張症(原発性または続発性)
  • リンパ管閉塞(悪性腫瘍、リンパ腫、結核など)

リンパ液(タンパク質豊富)が腸腔内に漏出。

3. うっ血性心不全などによる静脈うっ滞

心疾患によって腸粘膜のうっ血が起こり、透過性が増す。

どんな症状?

  • 浮腫(全身、特に下肢や顔)
  • 腹水や胸水
  • 下痢(ある場合とない場合あり)
  • 疲労感、体重減少
  • 低アルブミン血症による合併症(感染リスク上昇など)

診断

  • 血液検査:アルブミンや総タンパク低下
  • 便中α1-アンチトリプシン:漏出タンパク質の指標
  • 画像検査(CT、内視鏡など):基礎疾患の評価
  • 腸リンパ管造影、リンパシンチグラフィー:リンパ管の評価

原因不明が多い

近年、犬の間で蛋白漏出性腸症が増えている背景については、原因不明とされています。そもそもなぜ腸壁のバリアに損傷が起きてしまうのかも厳密にはよくわかっていません。

ところが、ここに腸内細菌という重要なファクターが存在します。

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腸内細菌が深く関与

腸内細菌の世界

腸内細菌の崩壊:ディスバイオシス

Foremaラボには、蛋白漏出性腸症と診断された犬や、原因不明ながらもアルブミンが低下してしまった犬、そしてIBDと診断された犬の腸内細菌データが大量にあります。

そこから見えてきたのは、一部の例外を覗き、ほぼ全ての例において腸内細菌のバランスが破綻しているという現実です。この状態をディスバイオシスといいます。

リーキーガット

腸壁のバリアが破綻し、隙間から内容物が漏れてしまう状態は、欧米ではリーキーガット(腸漏れの意味)と呼ばれていますが、比較的近年まで、「いかさま医療」のような怪しい領域と見られていたようです。

さまざまな知見が蓄積された現代においては、炎症をはじめとする腸粘膜の異常などによって、タイトジャンクションと呼ばれる腸壁の接合部が緩み、内容物の漏出、いわゆるリーキーガットが起こる事がわかっています。

腸内細菌も漏れ出す

腸壁のすきまから漏れ出すのはタンパク質だけではありません。時に腸内細菌そのものやその代謝物、そして時に毒素なども漏出し、腹腔や周辺臓器に悪影響が及ぶ場合があります。

免疫の暴走と炎症

腸壁には免疫細胞が集まっており、正常な炎症の惹起と抑制に関わっています。腸内の炎症進行とリーキーガットが起きている時、免疫細胞も正常な機能から逸脱してしまいます。

アルブミンの低下が起きている個体の多くで、IBDの診断がなされているのは、両者が同じ背景の出来事だからです。

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ステロイドと免疫抑制剤は正解か?

犬と腸内細菌

正常な応急処置

炎症の進行が主因として漏出が起きているのであれば、ステロイドで炎症を抑制したり、免疫抑制剤によって免疫そのものに少し控えてもらうというのは正常な応急処置と言えます。

ただしこれは根本のケアにはなりません。

治ったと勘違いする

ステロイドや免疫抑制剤の投薬によって、早い段階で症状が落ち着きます。そして多くの飼い主さんが、治ったと誤認してしまいます。ところが、これは症状を一時的に見えなくしているだけのものです。様子を見ている間に事態が進行する場合もあります。

やがて効かない日がやってくる

ある日、突如ステロイドが効かない瞬間がやってきます。これは、症状を見えなくしている間にも、根本の不具合が進行していた可能性を示唆しています。

グラスに注ぎ続けた水が、ある日ついに溢れてしまうのに似ているかもしれません。この状態で何かをしようと思っても、手遅れかもしれません。

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腸内細菌の生態系を復元する

腸内細菌の生態系

腸内細菌のバランス崩壊

蛋白漏出性腸症の個体では、腸内細菌のバランスが破綻していると上述しました。

例えば

  • 特定の細菌グループが正常な個体の10倍くらいにまで(もしくはそれ以上)増加している
  • 重要な常在菌グループがごっそりいなくなっている
  • IBDの原因とされている細菌たちが過剰に増加している
  • 多様性が大幅に低下している

などです。ここに善玉菌、悪玉菌という概念はあまり関係なく、バランスが異常である事が主要な問題です。

腸内細菌の解析には時間とお金がかかるため、一般的には動物病院では診断ができません。その間に抗生物質も含め、さまざまな投薬がなされることも、腸内細菌のバランス崩壊の大きな要因となります。

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バランスを取り戻す

重要な常在菌たちが枯渇しているのであれば、わずかな生き残りをどうにかして育てていく事で改善できる可能性があります。微生物は、24時間もあれば膨大な数に膨れ上がります。生き残りがいれば回復は不可能ではありません。

また、特定の細菌グループが過剰に増加しているのであれば、それらを抑制する成分の摂取が重要な選択となります。(できれば抗生物質以外)

プロバイオティクスやプレバイオティクスは、この時重要な選択肢となります。

治らない個体もいる

ステロイドが効かなくなるまで悪化した場合、半分くらいの個体は整腸によっても回復に至りません。枯渇してしまった常在菌たちに生き残りがいなかった(もしくはそもそも保有していなかった)などの深刻な場合においては、整腸によるケアでも対処が困難な場合があります。

残されている選択肢があるとすれば、糞便移植(FMT)が挙げられます。

国内でも一部の動物病院が導入していますが、まだまだ高額です。普及が進むことで今後少しずつ価格が抑えられてくると予想されます。

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犬と猫の腸内細菌検査 byOm(バイオーム)

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