今も昔も美容や健康にとって重要とされるのが乳酸菌。近年では猫用に乳酸菌入りのフードやサプリが多く販売されています。しかしながら、人間と違って完全肉食性の猫に乳酸菌を与えることでデメリットはないのでしょうか?
ここでは腸内細菌研究の視点から、猫の乳酸菌デメリットについて語ります。
猫に乳酸菌のデメリットについて

結論:猫への乳酸菌は基本的にデメリット無し
例外を除き、デメリットはありません
結論から書くと、猫がサプリなどで乳酸菌を摂取することは、(サプリがまっとうなものである限り)特に問題はありません。猫の腸内には常在菌として、複数種の乳酸菌たちが生息しています。サプリによって乳酸菌の種類や濃度は異なりますが、一般的な乳酸菌種の摂取で猫の腸内環境がダメージを受けるようなことはありません。(あるとすれば潜在的な不具合が考えられます)
導入初期には注意が必要
ただし、初めて乳酸菌製品を取り入れる場合などでは、おかなが緩くなったり、下痢をする事例があります。これは腸内環境が急に変動したことによる一時的は反応(異物として判断されたなど)と考えられますが、通常は2,3回目で落ち着きます。
もしも落ち着かない場合、腸内に異変が起きている可能性があります。それは乳酸菌のデメリットというよりも、何らかの要因で潜在的にリスクを保有してるというのが実情と言えます。
過剰な乳酸菌はマイナスの可能性も
焦って与えすぎない
乳酸菌に限ったことではありませんが、過剰摂取は望ましいものではありません。度を越せば腸内環境に悪影響を与える可能性は否定できません。特に導入初期に期待して多くあげすぎる事例は多々みられるため、焦らない事は重要です。
乳酸菌では解決できない問題もある
たとえば消化器トラブルにおいて、乳酸菌は万能なように思われがちですが、現実としては乳酸菌とは無関係のところで起きている消化器トラブルは多々あります。
こういう場合に乳酸菌を摂取しても改善がありません。にも関わらず量を増やし続けたり、「乳酸菌を摂っているから大丈夫」と、選択肢が見えなくなっている事例がしばしば見られます。
関連記事: 猫のibd ステロイドが効かない時..
乳酸菌がリスクになる場合

乳酸菌の過剰増加
一部の自己免疫疾患(希少事例)
IBDや、一部の自己免疫疾患の猫の腸内で、代表的な乳酸菌グループである「(旧)ラクトバチルス属」の一部が過剰増殖している事例(※)がごく稀に見られます。そういう場合の検出量は少なくても一般的な個体の10倍超、ひどい時には50~100倍ほどの検出比率を示す事例すらあります。
※たとえばL.サリバリウスはプロバイオティクスとして有用な側面がある一方で、感染症の原因にもなりやすいという別の顔があります。
乳酸菌の過剰増加に対してサプリはリスク?
上述のような過剰増加の状況に対し、「とりあえず乳酸菌..」という選択はリスク要因と考えられますが、一方でこうした極端な突出は元々の腸内環境が機能不全に陥っている可能性を窺わせます。つまり乳酸菌の過剰増加な増加は不具合の原因というより、あくまで結果と捉えることができます。(これは腸内細菌解析を実施しない限り見えません)
尚、こうした状況に対し、特定の乳酸菌たちが抑制に貢献するという研究論文もあり、ここは奥深く敏感な領域です。
関連記事:犬と猫のIBD - ステロイドが効かない時に腸内では何が起きているのか?
ビフィズス菌の過剰増加
乳酸菌とは、乳酸を一定量生み出す細菌たちの総称です。乳酸菌と呼ばれる細菌たちの中に「一部のビフィズス菌(※)」も含まれています。
※ビフィズス菌とは、ビフィドバクテリウム属の細菌たちの総称です。
通常、犬や猫の腸内から「ビフィズス菌」はわずかしか検出されませんが、まれに通常の数十倍の濃度で検出される個体がいます。多くの場合、下痢や嘔吐といったトラブルを抱えています。この状況に対してさらに乳酸菌を投入するのはリスク要因と言えます。
尚、このパターンにおいては「IBD疑い」として診断されていることが多く、「とりあえず乳酸菌..」という選択に至っている事例がしばしば見られます。
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「猫には猫の乳酸菌」は正しくない?
英語の文献ではほとんど言及されていない
「猫には猫にあった乳酸菌」、「猫には腸球菌(※)が大事」といった論が根強いです。ところが、世界的な文献を見渡してもそのように言及しているものはごく一部に限られています。Foremaが保有する猫の膨大な腸内細菌データにおいても、「猫には腸球菌が多い」という事実はありません。
※腸球菌: エンテロコッカス属細菌の一般的な総称。サプリの文脈ではフェカリス菌/フェシウム菌を指すことが多い。
なぜ誤認が起きているか?
「猫には猫にあった乳酸菌」、「猫には腸球菌が大事」という論の根拠は、おそらくは2017年の東京大学の論文です。この時の研究手法は、現在主流の微生物DNAの解析手法ではなく、旧来の培養法が主体となっている上、リアルタイムPCRが採用されている点も大きな問題です(腸内細菌叢の解析には不向き)。
今ほど研究が進んでいない時期の論文のため、機器や予算に大きな制約があったのだと考えられますが、7,8年経過した今も当時の情報が根強く残っている点は大きな問題です。
尚、この時の研究にはフェシウム菌のサプリメーカーがお金を出しているという背景も重要です(※)。
※企業が研究費を出すこと自体は全く問題がありませんが、背景を知っておくと違うものが見えてくる場合があります。
関連記事:「猫には腸球菌」は本当か?
事実誤認で現実を見誤る
選択肢は乳酸菌だけではない
先にも少し触れましたが、多数選択肢がある中で盲信的に乳酸菌を選択してしまい、他の選択肢が見えなくなるような事例がしばしば見られます。乳酸菌は研究が進んでいるために知名度が浸透していますが、現実としては多くの腸内細菌たちの中の、ごく一部に過ぎません。
微生物群系として捉える
腸内環境の健全性を維持しているのは、多数を占める有名無名の常在菌たちであることが多く、むしろこれらのバランス崩壊こそが深刻な事態を招きます。
数百種類の微生物群の中に乳酸菌という1つの大きなグループが存在し、さまざまな役割を果たしています。
乳酸菌を無条件に信奉しすぎること。それこそが乳酸菌のデメリット(リスク)だと言えます。