ドッグフードの乳酸菌にメリットはあるか?

ドッグフードの乳酸菌にメリットはあるか?

飼い主さんの健康志向の高まりで、「乳酸菌入り」をうたったドッグフードが増えています。しかしながら、本当にドッグフードに乳酸菌が必要なのでしょうか? ここでは専門的な内容も踏まえて解説します。

ドッグフードに乳酸菌は必要か?

結論から書くと、乳酸菌は必須ではありませんが、あった方が良い成分です。

乳酸菌の働きとして「整腸に貢献する」という特徴があります。健康志向という趣旨であれば、乳酸菌入りのドッグフードは大きなメリットと言えます。

以下、乳酸菌の働きとして代表的なものを記載します。

  • 腸内の炎症抑制
  • 免疫への働きかけ(免疫活性と鎮静の双方)
  • 腸内のph調整
  • 抗菌活性(レンサ球菌など競合の抑制)

他にも、乳酸菌種によってはメンタルへの好影響や睡眠への影響も報告されています。ただしこれは乳酸菌だからというよりも、腸内環境そのものがメンタルなどに深く関与しているという点が本質と言えます。

上述のように、ドッグフードの乳酸菌にはメリットがある一方で、違った側面もあります。

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「乳酸菌入り」の実情

乳酸菌は高額

乳酸菌とは本来高額なものです。これを本当に意味のある量でドッグフードに添加すると、原価は高騰します。よって、価格を維持しながら乳酸菌を使用するには、量を極力減らす必要があります。結果として「キャッチコピー」だけの商品となってしまいます。

乳酸菌は死んでいる

乳酸菌を生きたまま維持するにはフリーズドライ加工かつ冷凍保存が必須なため、加工品であるドッグフードに使用される乳酸菌は死んでいます(※芽胞を形成する有胞子性乳酸菌は例外)。死んだ乳酸菌も「死菌」として整腸に貢献する一方で、生きて働く「生菌」とは別物です。

例えば腸内で乳酸菌群が枯渇している場合、「死菌」を導入しても数は増えません。この場合は「生菌」と「死菌」の併用が重要な選択となります。

詳しく書くと長くなるので割愛しますが、「死菌」と「生菌」を混同した商品は多く、中には意図的に「生菌」であるかのような誤認をさせる商品も存在する点に注意が必要です。

※死菌の状態で健康寄与へのエビデンスがあり、特許を取得している乳酸菌製品も多く存在します。働きと用途を理解した上で商品設計されていることが重要です。

関連記事:乳酸菌「合う」「合わない」の真相

乳酸菌は400種以上が存在

乳酸菌とは総称です。最新の分類では400種以上が存在しており、再分類や新種の発見によって、これからも数は増えていくはずです。

その中で、「乳酸菌入り」というのは、かなり雑な表現ではあります。重要なのは「どの乳酸菌」が「どういう意図で」使用されているか、という点です。つまり設計の思想です。

犬や猫の腸内で重要な乳酸菌は「ラクトバチルス属」を中心とした「ラクトバチルス科」の細菌たちであり、その周辺に「ストレプトコッカス科」や「エンテロコッカス科」の細菌たちが存在します。もう少し詳しく書きます。

エンテロコッカス科

ドッグフードで使用されることが多いのは「エンテロコッカス科 > エンテロコッカス属」の「フェカリス菌」です。死菌として様々なエビデンスがあり、世にある乳酸菌入りドッグフードの大半のシェアを占めています(※国産の場合)。主な働きとしては腸壁のパイエル板(免疫に関与)への働きかけによる免疫活性があります。

「フェカリス菌」は、条件が合えばとても良い働きをしてくれる一方で、時に全く無力の場合があります。例えば腸内で乳酸菌群が枯渇している場合や、腸内環境そのものが崩壊している場合(ディスバイオシス)、そして主だったIBD(炎症性腸疾患)などです。(ディスバイオシスとIBDはほぼ同じ状況)

Forema のドライフードでも「フェカリス菌」は使用していますが、あくまで補助的な位置付けで使用しています。

(※各種乳酸菌摂取のBefore/Afterについては、複数の腸内細菌解析データで日々検証しています)

ラクトバチルス科

かの有名なシロタ株は「ラクトバチルス科」の中でもメジャーな存在です。ただしドッグフードでは生菌は意味を成さないため、使用事例を目にすることはありません。

ドッグフードで多いのは、植物由来の乳酸菌として知られる「ラクチプランチバチルス属」などで、こちらも死菌としてエビデンスのある株が原材料として流通しています。ただし上述のフェカリス菌とくらべて、1gあたりの菌数が1桁以上少ないため、原価は高騰します。よって、事実上ドッグフードではほとんど目にすることがありません。

ストレプトコッカス科

ストレプトコッカスというのは主要な病原性細菌である「レンサ球菌」のグループですが、実は乳酸菌とは近縁種です。よって、乳酸菌たちによって抑制される存在でもあります。そんな「ストレプトコッカス科」の中にも乳酸菌として有益なものがいくつか存在します。

ヨーグルトの原材料として必須の「S. サーモフィルス」がその代表ですが、生きて発酵するのが強みであるため、やはり通常はドッグフードには使用されません。

一方で、「ストレプトコッカス科 > ラクトコッカス属」の細菌は死菌でもエビデンスが得られており、製品として流通し始めています。某大手メーカーがPRに注力しているため、ゆくゆくはドッグフードの原材料として登場するかもしれません。(問題は原価と設計の思想)

バチルス科

「バチルス科」というのは、納豆菌が分類されるグループです。納豆菌そのものは乳酸菌ではありませんが、近縁種の「ワイツマニア属」の細菌が「有胞子性乳酸菌」として商品科されています。この細菌は芽胞(※バリアのようなもの)を形成して休眠する特性があり、100℃以上の過酷な環境にも耐えられるため、唯一生菌としてドッグフードに使用できる存在です。よって、上述の「フェカリス菌」とともにシェアの多くを占めています。

一方で、「ワイツマニア属」はそもそも犬猫の腸内環境においては極めてマイナーな存在であり、整腸の中核をなすものではありません。Forema のドライフードでも「有胞子性乳酸菌」を使用していますが、腸内多様性の向上と整腸補助といった趣旨であり、主役ではありません。

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IBDには力不足

原因不明の炎症

近年犬や猫の間で増加しているIBD(炎症性腸疾患)。何らかの事情によって腸内で炎症が続き、さまざまな不具合に至ります。原因は不明とされていますが、近年の研究では腸内細菌の関与がほぼ疑いのない状況にあります。

IBDの対策として獣医師から乳酸菌を案内される事例は多いようですが、IBDの対処としては、乳酸菌は主役ではない可能性があります。

IBDにはたくさんの種類がある

IBDというのは総称であり、多くの疾患が含まれていると考えられます。腸内細菌のパターンで分別すると10パターン前後が存在するため、「一括りに乳酸菌」で対処するのは最善ではありません。(補助としては重要)

乳酸菌が抑制するのは近縁種の「レンサ球菌」をはじめ、「ウェルシュ菌」や「ディフィシル菌」といった病原性細菌たちです。一方で、例えば食中毒の原因にもなる「シュードモナス属」や、炎症に加担する「プロテウス属」その他「エンテロバクター科」の細菌たちに対しては力不足な傾向があります。

また、そもそもIBDは病原性細菌らが原因ではないものが多く、例えば常在菌の一部が過剰に増加して炎症を誘発している場合などは乳酸菌は無力です。

関連記事:犬のIBD.. ステロイドが効かない時に起きている事

それでも乳酸菌が効く場合がある

乳酸菌が無力な場合において、それでも乳酸菌で下痢がおさまる、などの事象がしばしば見られます。これは、おそらくは乳酸菌が持つ炎症抑制の働きが奏功したのだと考えられます。

一方で、そうした事例で腸内細菌を解析してみると「乳酸菌は増えているけれど、根本のバランス崩壊は全く改善していない」というケースが多く見られます。

つまり、対処としては活躍したが、解決には貢献できなかったという事です。

本質としては、乳酸菌がだめなのではなく、無条件で盲信することが問題と言えます。

関連記事:猫のIBD-腸内では何が起きているのか?

まとめ

長くなってしまいましたが、以上をまとめると下記のような内容となります。

  • ドッグフードの乳酸菌はあった方がいい
  • 使用の意図や設計の思想が重要
  • 乳酸菌は重要だが盲信は問題

世の中にはたくさんの商品が溢れていますが、キャチコピーに惑わされる、それが本当に必要かどうかを冷静に判断する目が必要です。

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