地域猫のさくらちゃん

猫と尿毒素、腎臓..そして腸内細菌の話

猫の健康を考える上で「腎臓」はとても重要な臓器です。特にシニア猫では腎臓の機能が低下しやすく、それに伴って「尿毒素(にょうどくそ)」と呼ばれる有害な物質が体内に溜まりやすくなります。

今回は尿毒素とは何か、増えるとどうなるのかについての一般論、そして腸内細菌との関連について記載します。

尿毒素とは何か?

尿毒素とは、体内の代謝によって生じる老廃物の総称です。

本来であれば腎臓が尿として体外に排出しますが、腎臓の機能が低下すると、尿毒素をはじめとする老廃物が体内に蓄積してしまいます。特に腎不全の猫では尿毒素が増えやすく、体調不良を引き起こす原因となります。

代表的な尿毒素

尿毒素にはさまざまな種類がありますが、特に猫の健康に影響を及ぼすものとして、以下のようなものがあります。

  • クレアチニン:筋肉の代謝産物で、腎機能の指標としてもよく使われる。
  • 尿素窒素(BUN):タンパク質の分解に伴って生じる老廃物。
  • インドキシル硫酸:腸内でタンパク質が分解される際に発生し、腎機能低下時に蓄積する。
  • p-クレジル硫酸:腎機能が低下すると排出されにくくなり、体に悪影響を及ぼす。 

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尿毒素が増えるとどうなる?

尿毒素が体内に溜まると、猫はさまざまな健康問題を抱えるようになります。あくまで一般論ではありますが、主には下記のような症状が知られています。

  1. 食欲不振/体重減少:尿毒素が増えると、猫は食欲をなくし、次第に痩せてしまいます。腎臓病の猫で「最近ご飯をあまり食べない」「やせてきた」と感じる場合は、尿毒素の蓄積が関係しているかもしれません。
  2. 嘔吐/下痢:尿毒素の影響で胃腸の働きが悪くなり、嘔吐や下痢を起こしやすくなります。特に慢性的に吐く場合は、腎臓の問題を疑うべきでしょう。
  3. 口臭が強くなる:腎不全の猫では、口の中がアンモニア臭くなることがあります。これは尿毒素の影響で、体内の老廃物がうまく排出されていない事が要因となっている可能性があります。
  4. 脱水と多飲多尿:尿毒素の増加により、腎臓が十分に水分を保持できなくなります。その結果、猫は多くの水を飲み、多くの尿を出すようになります。この状態が続くと脱水が進み、体調がさらに悪化します。
  5. 神経症状(けいれん・ふらつき):尿毒素をはじめとする体内の毒素が脳に影響を及ぼすと、ふらついたり、けいれんを起こしたりすることがあります。これは危険な状態で、すぐに獣医師の診察を受ける必要があります。 

では、なぜ尿毒素が増えてしまうのでしょうか? 解析技術の飛躍的な進歩により、尿毒素に腸内細菌たちが関与している事が分かってきました。

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腸内細菌が関与する尿毒素~関連成分

インドール、フェノール、クレゾール

インドール、フェノール、クレゾールは腸内で発生し、一部が尿毒素の前駆物質(ざっくりいうと尿毒素の元)として体内に取り込まれます。

これらの物質は特に腎機能が低下した猫や人で排出が困難になり、体内に蓄積することで健康に悪影響を及ぼします。

インドールと尿毒素

インドールは、腸内の嫌気性細菌の一部がトリプトファン(アミノ酸の一種)を分解することで生成されます。通常、インドールは肝臓で硫酸化され、インドキシル硫酸(尿毒素の一種)として血中に取り込まれます。

  • 腎機能が正常な場合 → 腎臓から尿として排出
  • 腎機能が低下すると → インドキシル硫酸が体内に蓄積し、腎臓の線維化(腎機能の悪化)を促進

 特にインドキシル硫酸は腎機能をさらに悪化させることが知られており、慢性腎不全(CKD)の進行を加速させる原因となります。

フェノールと尿毒素

フェノールは、アミノ酸が一部の腸内細菌によって分解される際に発生します。フェノール自体も毒性を持ちますが、肝臓で代謝されることでp-クレジル硫酸フェニル硫酸といった尿毒素に変換されます。

p-クレジル硫酸
  • 腎機能低下時に体内に蓄積
  • 炎症を促進し、腎臓・心血管系に悪影響を与える
  • 腎不全の進行を加速させる
フェニル硫酸
  • 体内の酸化ストレスを増加させ、細胞ダメージを引き起こす
  • 腎臓や血管系の健康を損なう

フェノール由来の尿毒素は、腎不全の個体の血中で濃度が上昇しやすく、腎臓だけでなく全身の健康にも悪影響を及ぼします。 

クレゾールと尿毒素

クレゾールはフェノールと似た構造を持つ有機化合物で、さまざまな腸内細菌グループによって生成されます。これも肝臓で代謝された後、尿毒素の一種であるp-クレジル硫酸として血中に蓄積します。

p-クレジル硫酸の主な影響
  • 腎臓の炎症や損傷を悪化させる
  • 心血管系疾患のリスクを高める(動脈硬化など)
  • 腸内環境を悪化させる(腎不全の悪循環を助長)

クレゾール由来の尿毒素も、腎機能が低下した猫ではうまく排出できず、全身の健康に影響を及ぼします。

物質 生成元 尿毒素としての変換 影響
インドール トリプトファンの分解 インドキシル硫酸
  • 腎機能の悪化
  • 線維化促進
フェノール アミノ酸の分解

p-クレジル硫酸
フェニル硫酸

  • 炎症促進
  • 腎不全の進行
  • 血管系ダメージ
クレゾール 腸内細菌の代謝 p-クレジル硫酸
  • 腎機能障害
  • 心血管リスク増加

これらの尿毒素は、腎不全の進行を加速させるだけでなく、猫の食欲低下や嘔吐、貧血、全身の炎症といった症状を悪化させる原因となります。そのため、腸内環境の改善は重要事項と言えます。

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腸内細菌が尿毒素に関与するメカニズム

腸内細菌は、食事由来の成分(主にアミノ酸)を代謝し、さまざまな物質を産生します。その中には、腎臓が機能している間は尿中に排泄されるものの、腎機能が低下すると血中に蓄積し、尿毒素(尿毒症毒素)として作用するものがあります。

先の記述と重複しますが、腸内細菌が関与する尿毒素には以下のものがあります。

インドキシル硫酸(Indoxyl sulfate, IS)

生成過程:

  1. 腸内細菌(特に嫌気性細菌)がトリプトファン(アミノ酸の一種)を分解
  2. その過程でインドールが生成
  3. インドールは腸管から吸収され、肝臓でインドキシル硫酸(IS)に変換
  4. 腎臓で尿中に排泄されるが、腎機能が低下すると血中に蓄積

影響

  • 腎機能を悪化させる(腎線維化の促進)
  • 酸化ストレスを増加させ、血管障害を引き起こす
  • 腎不全の進行を加速

p-クレジル硫酸(p-Cresyl sulfate, pCS)

生成過程

  1. 腸内細菌がチロシン(アミノ酸の一種)を分解
  2. その過程でp-クレゾールが生成
  3. p-クレゾールは腸管から吸収され、肝臓でp-クレジル硫酸(pCS)に変換
  4. 腎臓で排泄されるが、腎機能が低下すると血中に蓄積

影響

  • 腎機能の悪化を促進
  • 腎臓だけでなく心血管系にもダメージを与える
  • 腸内環境の悪化(腸内細菌バランスの乱れ)を引き起こす

フェニル硫酸(Phenyl sulfate)

生成過程

  1. 腸内細菌がフェニルアラニン(アミノ酸の一種)を代謝
  2. その過程でフェノールが生成
  3. フェノールが肝臓で代謝されフェニル硫酸に変換
  4. 腎臓で排泄されるが、腎機能低下時に血中に蓄積

影響

  • 酸化ストレスを増加させ、腎臓や血管系にダメージを与える
  • 慢性腎臓病(CKD)の進行を助長する

腸内細菌が関与する尿毒素一覧

尿毒素 由来 影響
インドキシル硫酸 トリプトファン → インドール
  • 腎線維化
  • 酸化ストレス増加
p-クレジル硫酸 チロシン → p-クレゾール
  • 腎機能悪化
  • 血管障害
フェニル硫酸 フェニルアラニン → フェノール
  • 酸化ストレス増加
  • 腎障害

 

上記に関与する細菌たちはわかっているだけでも数十種類存在するため、何か1つをターゲットとするのではなく、腸内環境全般を広くケアする事が重要です。プレバイオティクスとプロバイオティクスを併用し、焦らず時間をかけて腸内バランスを改善していく事が最善の選択肢となります。

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最後に、一般論としての対策

猫の腎臓ケア、尿毒素対策としての一般論を記載します。

  1. 食事の調整:特に腎臓にダメージのある猫には、タンパク質やリンの量を調整したフードが推奨されます。尿毒素の発生を抑え、腎臓の負担を減らすことができます。
  2. こまめな水分補給: 水分をしっかりとることで、尿毒素を排出しやすくなります。ドライフードの比率を減らしながらウェットフードを導入したり、新鮮な水を常に用意することは重要です。
  3. サプリメントの活用:プロバイオティクスとプレバイオティクスの双方が従有用な選択肢となります。尿毒素の多くは腸内細菌によって産生されるため、腸内環境のケアは最も重要な選択肢となります。
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