犬の全身性エリテマトーデスと腸内細菌の関係
(最終更新日: )大抵の人は「全身性エリテマトーデス(SLE)」と言われてもピンと来ないはずです。ましてや、愛犬がそのような診断名をくだされたら、理解するのに多くの時間がかかるでしょう。
ここでは、特に犬で珍しい難病、全身性エリテマトーデスについて、特に腸内細菌(腸内フローラ)解析の視点から解説します。
深刻な自己免疫疾患の1つ

人間でも珍しい難病
全身性エリテマトーデスは、人間においては指定難病の1つです。以下、厚労省の資料から抜粋します。
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概要 全身性エリテマトーデスはDNA-抗DNA抗体などの免疫複合体の組織沈着により起こる全身性炎症性 病変を特徴とする自己免疫疾患である。症状は治療により軽快するものの、寛解と増悪を繰り返して慢性 の経過を取ることが多い。
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原因 一卵性双生児での全身性エリテマトーデスの一致率は 25%程度であることから、何らかの遺伝的素因を 背景として、感染、性ホルモン、紫外線、薬物などの環境因子が加わって発症するものと推測されている。 その結果、自己抗体、特に抗DNA抗体が過剰に産生され、抗原であるDNAと結合して免疫複合体を形成 される結果、組織に沈着して補体系の活性化などを介して炎症が惹起されると考えられる。
引用:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000089929.pdf
人間の場合、特徴的な発疹で知られ、発症は女性に偏っています。
稀ながら、犬でも起こる
全身性エリテマトーデスは、稀ながらも犬での発生はあるようです。私たちのラボにあるデータから判断する限り、IBD/慢性腸症よりも症例ははるかに少ないです。
症状など詳細は動物病院などのウェブサイトに解説があるので、そちらに詳細を譲りますが、診断した獣医さんもかなり悩まれたのではないかと推察します。
とは言え、犬のIBDも10年前は非常に稀な疾患だった事を考えると、その急増たるや恐ろしいものがあります。
※尚、人間界においてはIBDも全身性エリテマトーデスも増加し続けています
腸内細菌と遺伝要因が関与する

自己免疫疾患である
全身性エリテマトーデスは自己免疫疾患です。自己免疫疾患とは、免疫が自己に対して反応し、暴走して自分を傷つける疾患の総称で、上述のIBDをはじめ、小麦がきっかけで自己への過剰反応に発展するセリアック病や、関節リウマチ、1型糖尿病などが知られています。(免疫の不具合という意味では食物アレルギーや花粉症なども、この周辺にある不具合と言えます)
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腸内細菌が深く関与する
自己免疫疾患全般において、腸内細菌との深い関わりが急速に解明され続けています。上述のIBDなどは、関与する腸内細菌の種類やグループが複数特定されている他、他の自己免疫疾患でも、特徴的な腸内細菌の変化が数多く報告されています。
全身性エリテマトーデスにおいても例外ではなく、腸内多様性の低下や、特定の炎症性の腸内細菌の増加、そして意外にも、乳酸菌群の異変などが報告されています。
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遺伝的要因も大きい
あくまで人間の場合ですが、全身性エリテマトーデスの発症は遺伝的要因が大きく、そこにストレスなどの外部要因、そして特定の腸内細菌らによるトリガー(引き金:発症のきっかけ)が揃う事で発症に至ると考えられています。(※遺伝的要因は100%ではなく、リスクが高い/低い といった要因とされる)
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Forema ラボでも複数の事例がある

人間と共通する部分がある
先述のように、数は多くないものの、私たちのラボにおいても犬の全身性エリテマトーデスの腸内細菌解析事例がいくつか存在します。
それらの組成は非常に特徴的なものであり、人間の症例研究で報告されている内容とも共通点が見られます。(あえて細部は伏せます)
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同じ個体がもっと存在する
全身性エリテマトーデスと診断された犬の腸内細菌が、人間の症例と共通のパターンを示すのは道理としても分かりやすいものです。
問題は、同じような特徴的な腸内パターンを持つ犬/猫はもっと多い、という事です。それらは「IBD疑い」などの診断にとどまっていますが、実際にはIBDではない可能性がもあります。
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乳酸菌の存在がある

乳酸菌は敵か味方か?
全身性エリテマトーデスの研究報告で興味深いのは、腸内における乳酸菌群の増加です。いくつかの研究で、これらは発症のトリガーとなっている可能性が指摘されています。
乳酸菌は400種類以上が知られていますが、全身性エリテマトーデスに関与の可能性が報告されているのは、いわゆる善玉菌としてよく名の知られた細菌種。事実、不具合のある個体の腸内で、これら乳酸菌が過剰に増加している事例は私たちのラボでもしばしば確認されているものです。
さらに問題を複雑にしているのは、これをら乳酸菌を抑制する方法として、また別の近縁の乳酸菌らが貢献するという研究報告の存在です。
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乳酸菌を与え続けるとどうなるか
世の中の空気としては、お腹の不具合には乳酸菌という、いわばステレオタイプの価値観が定着しがちです。
一方で、乳酸菌が過剰になった個体に乳酸菌群を与え続ける事で、事態はさらに悪化する可能性があります。
事実私たちのラボにおいても、そうした実例があります。※私たちが解析を実施した時点ではすでにどうしようもない状況に至っていました。
ともあれ、「無条件で乳酸菌」という選択肢は最善ではありません。
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マラリアへの耐性遺伝子?

なぜ引き継がれているか
全身性エリテマトーデスは、リスク遺伝子を持つ人において発症率が跳ね上がります。では、なぜこんなリスク要因が進化の過程で淘汰されず引き継がれてきたのでしょうか。
その可能性の1つががマラリアです。
全身性エリテマトーデスのリスク遺伝子には、マラリアへの抵抗力が強いという別の役割があることが近年の研究で示されています。
全身性エリテマトーデスは白人にはとても少なく、アジアの有色人種や黒人に多い点は、マラリアの蔓延地域とも重複しており、一定の説得力があります。
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犬についてはどうなのか
人間においてマラリアへの耐性と関連があったとして、では犬の場合はどうなのでしょうか。
全身性エリテマトーデスになりやすいのは中型/大型犬とされており、ジャーマン・シェパード、コリー、シェットランド・シープドッグ etc.. などが該当します。
ぱっと見ではマラリアとの関連は薄いように見えますが、人間とは異なる機序で同じような不具合に至っているのかもしれません。
どちらにおいても腸内細菌は重要な要因のため、日頃から異変を探知できるよう、定期的な腸内細菌の把握は重要でしょう。
よくある質問
犬のSLEはよくある病気ですか?
まれな病気です。ただし症状が多彩で他の病気と間違えやすいため、見逃されている例もあると考えられます。
注意が必要な犬種はありますか?
ジャーマン・シェパード、コリー、シェットランド・シープドッグ、アフガン・ハウンド、ビーグルなどで多いとされます。発症の平均年齢は5歳前後です。
鼻や顔だけに症状が出る「エリテマトーデス」とSLEは同じですか?
別の病態です。皮膚に限局する皮膚エリテマトーデス(円板状エリテマトーデスなど)は、全身の臓器を侵すSLEとは区別され、多くは予後良好です。
腸内細菌がSLEの原因なのですか?
原因とは断定されていません。ヒトやマウスでは、遺伝的素因のある個体で腸内細菌叢の乱れが発症や再燃に関わるという報告が増えています。
腸内細菌の検査でSLEかどうか分かりますか?
分かりません。SLEの診断は、複数臓器の症状と抗核抗体検査などを組み合わせて獣医師が行います。腸内細菌の検査はリスク要因や可能性の提示など、補助資料としてご活用いただくのが最善です。
乳酸菌サプリメントを与えれば良くなりますか?
そうとは限りません。ヒトのSLEや実験動物では、一部の乳酸菌がむしろ増えているという報告があります。効果は菌種・株・個体の状態によって変わるため、独断はおすすめできません。
治療中、腸内環境で気をつけることはありますか?
ステロイドや免疫抑制剤、抗生物質は腸内細菌叢を変化させます。便の状態や食欲の変化があれば、自己判断で薬を調整せず、獣医師に伝えてください。
食事や生活習慣でSLEを予防できますか?
予防法として確立したものはありません。発症後は、紫外線で皮膚症状が悪化することがあるため、日差しの強い時間帯の散歩を避けるのが一般的な対策です。
SLEは人や他の犬にうつりますか?
うつりません。SLEは自分の免疫が自分の体を攻撃する病気で、感染症ではありません。

Forema Labo チーム
腸内細菌や、環境中の微生物群集の解析~研究を行っています。Forema ラボでの数千件の解析データを元に、犬猫の腸内細菌と健康の関係、腸内環境と全身の健康との関係、そして自然界や生態系の話を発信しています。
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