腸内フローラの歴史

腸内フローラの歴史

腸内フローラって何だろう?

腸内フローラとは、人の腸内に生息する多種多様な微生物(細菌、真菌、ウイルスなど)の総体を指します。※英語ではMicrobiome(マイクロバイオーム)

これらの微生物は、消化や栄養素の吸収、免疫系の調節など、人体の様々な生理機能に深く関わっています。近年の研究では、腸内フローラのバランスが健康状態や病気の発症に大きく影響を与えることが明らかにされています。腸内フローラの構成は個々に異なり、遺伝、食生活、環境など多くの要因によって変化します。

腸内フローラ研究の歴史

1950年代:腸内細菌の初期研究

1950年代、腸内細菌に関する研究はごく一部に限られていましたが、乳酸菌やビフィズス菌といった特定の腸内細菌が健康に寄与することが注目され始めました。

食事や消化と腸内の微生物の関係性が徐々に明らかになり、腸内細菌の生態系が消化器機能を助けるだけでなく、ビタミンの合成や病原菌の抑制に関与していることが発見されました。

1958年には再発性の偽膜性腸炎(C. ディフィシル感染症)を、糞便移植(FMT)での治療に成功したといった報告が早くも登場しています。

1960年代:腸内細菌の役割への関心の拡大

1960年代には、抗生物質の普及により、腸内細菌のバランス崩壊が健康に悪影響を与える可能性について議論され始めました。特に抗生物質による有益菌/常在菌群の減少が免疫システムに与える影響や、薬剤耐性菌の問題が浮上し、腸内細菌の重要性が徐々に認識されるようになりました。

1970年代:腸内フローラ研究の基礎が築かれる

1970年代には、腸内フローラの研究が本格化し、腸内細菌がどのように消化や栄養吸収を助けるのかが明らかになり始めました。特に腸内で生成される短鎖脂肪酸(SCFA)が腸内環境を整え、腸の健康を維持する役割が確認され、腸内フローラが単なる消化の補助以上に重要な存在であることが分かってきました。

PeppercornとGoldmanは、抗炎症薬であるサリチルアゾスルファピリジンが、通常のラットやヒト腸内細菌で培養した場合は分解されるが、無菌ラットでは分解されないことを示し、薬物変換における腸内細菌叢の役割を示した。腸に限らず、微生物叢が薬物代謝に果たす役割を確認し、薬物の不活性化、有効性、毒性への影響を強調する研究が増えている。https://www.nature.com/immersive/d42859-019-00041-z/

1980年代:腸内フローラと健康の関連性が深まる

1980年代には、腸内フローラが健康維持にどのように関与するかについての研究が進み、ビタミンの合成や免疫系との関係性がより深く理解されました。特にプロバイオティクスの重要性が広まり、いわゆる善玉菌の補給が腸内バランスの維持に役立つという概念が一般に広がりました。また、この頃から、腸内フローラと慢性疾患〜アレルギー疾患との関連が注目され始めました。

自閉症の原因が細菌によるものではないかという説も80年代の後半に登場しています。

また、現在主流の解析手法のベースともなる 16S rRNA 解析についての基盤もこの時期に固まっています。

この分野における初期のマイルストーンは、環境細菌を同定するためにカール・ウーズ(Carl Woese)やノーマン・ペース(Norman Pace)らによって開発された。この技術は、小サブユニットのリボソームRNA遺伝子(16S rRNA)の塩基配列決定に基づいていた。1996年、WilsonとBlitchingtonはこの手法を用いて、ヒトの糞便サンプル内の培養菌と非培養菌の多様性を比較した。それ以来、複雑な群集からの16S rRNA遺伝子の配列決定は、ヒト微生物叢における微生物の多様性を評価するための強力なツールとなった。https://www.nature.com/immersive/


1990年代:腸内フローラと免疫系の関係が強調される

1990年代に入ると、腸内フローラと免疫システムの関連性がさらに解明され、腸内フローラのバランスが免疫疾患やアレルギー発症に与える影響が注目されました。プロバイオティクス製品が広く普及し、ヨーグルトやサプリメントによる整腸という選択が一般的なものになりました。また、腸内フローラが全身の健康に影響を与えることが多くの研究で示され、消化器疾患に限らず、全身疾患との関連が議論されるようになりました。

2000年代:ヒトマイクロバイオームプロジェクトと腸内フローラの進化

2000年代は、腸内フローラ研究が大きく進展した時期です。2007年にはアメリカで「ヒトマイクロバイオームプロジェクト(Human Microbiome Project)」が開始され、腸内フローラだけでなく、人体全体に生息する微生物の解明が本格的に行われました。このプロジェクトによって、腸内フローラの多様性や機能が次世代シーケンシング技術(NGS)を用いて解析され、腸内フローラが健康や病気にどのように関与しているかがより詳細に明らかにされました。

2010年代前半:腸内フローラと慢性疾患の関連性の解明

2010年代前半には、腸内フローラが肥満、糖尿病、うつ病、自閉症など、さまざまな慢性疾患と関連していることが多くの研究で示されました。また、「腸-脳軸」という概念が注目され、腸内細菌が脳や精神状態に影響を与える可能性が示されました。この時期、腸内フローラを改善するための食事療法やサプリメントが広まり、便移植という治療法も登場しました。

2010年代後半:個別化医療と腸内フローラの関連が進展

2010年代後半には、腸内フローラに基づいた個別化医療が進展し、個々の腸内フローラの構成に応じた治療法や栄養管理が提案されるようになりました。がん免疫療法における腸内フローラの役割も明らかにされ、腸内フローラを調整することが治療の効果を高める可能性があることが示されました。腸内フローラがますます病気の予防や治療において重要視されるようになりました。

2020年代前半:腸内フローラと健康の未来

2020年代に入ると、腸内フローラをターゲットとした治療法やサプリメントが一層進化し、腸内フローラを健康の指標として活用する個別化医療の研究がさらに進んでいます。加えて腸内細菌の遺伝的解析も大幅に進み、特定の病気や健康状態に関連する腸内フローラのパターンが明確化されつつあります。腸内フローラを調整することで、病気の予防や治療に寄与する新たなアプローチが次々と試みられています。

このように、腸内フローラの研究は、この70年間で大きく進展し、現代の医療や栄養学において不可欠な要素となっています。今後も腸内フローラの研究は、健康の維持や病気の治療において新たな可能性を切り開いていくでしょう。

腸内フローラを活用した個別化医療(パーソナライズ)

腸内フローラを活用した個別化医療は、個々の腸内細菌のバランスや種類に基づいて、特定の治療や予防策を個別に設計する医療的アプローチです。これは、腸内フローラの構成が個人ごとに異なり、それが健康や病気の発症に大きく影響を与えることが分かってきたため、ますます注目されています。具体的には以下のような方法があります。

※主には米国。日本では研究のみ。

1. 腸内フローラ分析による健康リスクの予測

腸内フローラの分析を通じて、特定の病気にかかりやすいリスクを評価することができます。例えば、肥満や糖尿病、心血管疾患、アレルギー、自閉症スペクトラム障害など、腸内フローラの構成と関連があることが多くの研究で示されています。腸内フローラのプロファイリング(個別の腸内フローラ構成を解析)を行うことで、その人に最も適した食事やライフスタイルの改善策を提案することが可能です。

2. プロバイオティクスやプレバイオティクスの個別処方

腸内フローラを改善するために、個人の腸内環境に最も適したプロバイオティクス(有益な細菌を含む製品)やプレバイオティクス(腸内細菌を活性化する食品成分)を処方することができます。従来の「誰にでも効く」製品から、個別の腸内フローラの状態に合わせたプロバイオティクスの選択が可能になり、より効果的な治療が期待されます。

3. 便移植(糞便微生物移植、FMT)

便移植は、腸内フローラが乱れている人に対して、健康な人の腸内細菌を移植する治療法です。この方法は、特に抗生物質が効かない感染症(Clostridium difficile感染症など)の治療に効果的であることが証明されています。最近では、便移植が炎症性腸疾患や自閉症、うつ病、パーキンソン病などの治療にも応用され、個々の腸内フローラに基づいた治療アプローチが模索されています。

4. 腸内フローラとがん治療の連携

腸内フローラはがん免疫療法の効果にも影響を与えることが明らかにされています。特に免疫チェックポイント阻害薬などの免疫療法において、腸内細菌のバランスが治療効果に影響を及ぼすことが研究で示されています。個別化医療として、腸内フローラを調整することで、免疫療法の効果を高めるアプローチが開発されています。例えば、特定の腸内細菌群が免疫療法の成功率を高めることがわかっており、治療前に腸内フローラを分析して適切な腸内環境を整えることが行われています。

5. 腸内フローラに基づく栄養管理

個々の腸内フローラの構成に基づいて、適切な栄養管理を行うことも個別化医療の一環です。例えば、腸内細菌が生成する短鎖脂肪酸(酪酸など)は、腸の健康を維持するのに重要ですが、その生産能力は腸内フローラの構成によって異なります。腸内フローラのプロファイリング結果に基づき、食物繊維や特定の栄養素を強化する食事が提案され、その人の健康に最適な食事療法を実践できます。

6. 腸内フローラと精神疾患の治療(サイコバイオティクス)

腸内フローラと精神的な健康との関連性が「腸-脳軸」という概念で注目されています。腸内フローラのバランスがうつ病や不安障害、自閉症スペクトラム障害に影響を与える可能性があり、精神疾患の治療においても腸内フローラを調整する方法が模索されています。特定のプロバイオティクスやプレバイオティクスを用いて、腸内フローラを改善し、精神的健康をサポートする治療法が個別に提供されることが期待されています。

腸内フローラを活用した個別化医療は、患者一人一人の腸内環境に応じた治療や予防を行うことで、従来の画一的な医療よりも効果的なアプローチを提供します。腸内フローラの解析技術や研究の進展により、今後ますます精密で個別化された医療が普及していくと考えられます。

参考文献: Nature

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