サプリなどでよく耳にするフェカリス菌。なんとなく有名な乳酸菌という認識がある一方で、詳細を知る人は多くないのではないでしょうか?
ここでは、フェカリス菌について、犬用/猫用の視点も踏まえてお届けします。
フェカリス菌とは何か?
腸球菌の仲間
フェカリス菌は、乳酸菌の一種として知られています。
正式名称を エンテロコッカス フェカリスといい、エンテロコッカス属のフェカリス種という意味です。
エンテロコッカス属というのは、日本語では腸球菌という名前で呼ばれており、文字通り丸い形状をしています。
かの有名なビオフェルミンもエンテロコッカス属を活用しています。
整腸作用がある
サプリとして使用されているフェカリス菌は、メーカーごとに特定の株が選別されていますが、国内で流通している主要フェカリス菌は加熱処理などの加工が施されている死菌です。
死菌なので、腸内で生きて活躍するという趣旨ではありません。(ここを誤解させるサプリは非常に多いです)
死んだ乳酸菌が腸内で健康に貢献するするメカニズムはいくつかありますが、フェカリス菌の場合、菌体の死骸が腸壁のパイエル板(※1)に吸着し、「適度に異物として認識される」ことによって免疫が活性化されると考えられています。
※1.パイエル板:免疫細胞が集まる免疫器官
また、他の近縁種らのエサとなり、場合によっては(※2)他の乳酸菌たちの増加に貢献することがあります。そうして生ずる連鎖反応が良い方に作用して宿主の健康に貢献します。
※2.腸内細菌の組成によって影響が変わります
近縁種フェシウム菌
フェカリス菌の近縁種にフェシウム菌という乳酸菌が存在します。近年まで同じ種として混同されがちな存在でしたが、DNA解析の技術向上によって、実は違う存在だということが分かっています。
上述のビオフェルミンも、従来はフェカリス菌とされていましたが、近年の研究で、それらの多くはフェシウム菌だったとの報告があります。
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フェカリス菌の別の顔
感染症の原因
フェカリス菌は腸球菌の一種であると上述しました。実は、腸球菌というのは元々は感染症の原因として有名な存在です。
世界的な脅威となっている薬剤耐性菌のVREは、日本語に直すと「バンコマイシン耐性腸球菌」で、抗生物質のバンコマイシンが効かない腸球菌という意味です。
フェカリス菌もフェシウム菌も、一部の株においては感染症の原因(※)となる細菌であり、乳酸菌とは言え、元来は別の意味で注目されてきた存在です。
※溶血性のある株に病原性があります。一方,野菜や発酵食品に含まれるのは溶血性のない株であり別物と言えます。
生菌ではない
上述のように、市場に流通する主要なフェカリス菌は死菌として使用されています。よって、一般の人たちが想像するであろう乳酸菌と、サプリなどで使用されるフェカリス菌は実態が大きく異なっているという点は注意が必要です。(※一部では生菌そのものを製造/販売しているメーカーもあり)
乳酸菌は、一般的にはヨーグルトなどを連想する事が多いと思いますが、フェカリス菌はヨーグルトとは直接的には無関係の存在です。ヨーグルトをはじめとする発酵食品で主要な乳酸菌は「ラクトバチルス属(※)」で、これは分類上もフェカリス菌とはやや遠いところに位置します。
※ラクトバチルス属は近年再分類が行われ、リモシラクトバチルス属やラクチプランチバチルス属など、大幅な細分化が進んでいます。
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乳酸菌のミスリード
乳酸菌はただのキャチコピー??
業者視点では、乳酸菌は美味しいキャッチコピーです。乳酸菌と書いておけばイメージが良く、(種類や含有量に関係なく) 売れやすいという現実があります。
「とりあえず乳酸菌」という安易な設計は残念ながら世に氾濫しており、「では、なぜ乳酸菌なの?」の問いに答えられる人は、製品担当者であっても決して多くありません。
特にIBDなど、深刻な消化器トラブルにおいては、乳酸菌以外の選択肢が重要になる局面も少なくありませんが、「整腸には乳酸菌」という固定概念が判断を誤らせる場合があります。
フェカリス菌は無意味?
国内に流通するフェカリス菌の中でも、意欲的に研究を進めているN社の製品は多くの特許を取得し、エビデンスも複数存在する確かな品です。
Foremaでも社内で何度も検証し、実際に腸内細菌に与える影響の良し悪しをデータとして保有しています。よって、乳酸菌製剤として流通しているフェカリス菌自体は有益な品と考えて問題ないと判断しています。
一方で、無条件にフェカリス菌、というのは正解ではなく、菌数だけをPRする広告や、死菌の方が優れているといった主張を展開する広告はミスリードの温床というのも事実です。(死菌と生菌を同列で論ずるのも問題)
最適な用途で使用する事が大事
Foremaラボには、消化器トラブルなどでフェカリス菌サプリを使用している犬や猫の腸内細菌データが複数あります。改善事例もしばしば見られますが、同時にほとんど改善が見られないケースも同じくらい頻繁に見られます。
中には、(おそらくはフェカリス菌の影響で)腸内で乳酸菌が増加しているにもかかわらず、結果的には下痢や嘔吐が全く治らないというケースも一定数存在しています。こういうパターンの背景として、不具合がそもそもフェカリス菌の影響範囲とは無関係のところで起きているという点が挙げられます。
また、腸球菌(エンテロコッカス属)の一種である「フェカリス菌」と、例えば主要な乳酸桿菌(ラクトバチルス属)の一種である「アシドフィルス菌」は分類的にも、役割的にも全く別物です。また、死菌と生菌でも、働きや影響はやはり別物です。
これらをひとまとめに「乳酸菌」とキャッチコピー化しているあたりに、ペットフード市場/健康食品市場の危うさがあります。
乳酸菌以外の選択肢
消化器トラブルを抱えている犬や猫の腸内細菌データから見えてくるのは、乳酸菌の影響範囲とは別の領域の不具合が少なくないという事です。
こうした個体が乳酸菌を摂取しても改善が無い一方で、「しばらく続けてみましょう」「しばらく様子を見ましょう」と時間ばかりが過ぎてしまう懸念があります。
改善が見られないため、中には取り憑かれたように複数メーカーのサプリを何種も併用し、しかしながら全く改善に至らないという苦しい事例も見られます。
フェカリス菌も含め、乳酸菌全般はあくまで選択肢の1つであり、状況に応じて使い分ける必要があります。消化器トラブルを中心とした 不具合がどうしても改善しない場合、一歩立ち止まって腸内細菌の解析を実施することは極めて重要な選択肢と言えます。