よく分かる! 犬と猫の酪酸菌のお話

よく分かる! 犬と猫の酪酸菌のお話

健康志向の高い人たちから注目されている「酪酸菌(らくさんきん)」。近年では愛犬用/愛猫用に酪酸菌サプリの需要が増えてきたため、「犬と猫の酪酸菌」についてまとめてみたいと思います。

酪酸菌って何?

酪酸を生み出す細菌たち

酪酸菌は、正式には酪酸産生菌(らくさんさんせいきん)と呼ばれる細菌グループで、その名の通り酪酸(らくさん)という成分を生み出します。

酪酸は短鎖脂肪酸の一種でもあり、大腸の上皮細胞のエネルギー源となります。結果、腸内粘膜の強化や病原性細菌の定着の抑制、腸内の炎症抑制にもつながり宿主の健康にも貢献します。

数十種類が存在する

「酪酸菌」は、人や犬、猫の腸内から検出されるだけでも数十種類が存在します。哺乳類だけではなく、昆虫の腸内からも検出されるため、ありとあらゆる生き物と共生しているのだと考えられます。
(ただし、1人や一頭が保有するのはそのうちの数種〜10数種程度)

酸素に極めて弱いという特性があるため、まだあまり研究が進んでおらず、実際にはもっと多くの酪酸菌が存在しているはずです。

腸内フローラ解析 犬用/猫用

犬と猫の腸内細菌解析 「byOm(バイオーム)」

犬と猫の酪酸菌

犬がよく保有している酪酸菌

ごく一部を紹介します。

酪酸菌は食物繊維類で増加する傾向があるため、特に雑食性が進み、野菜類をはじめ様々なものを食べている個体の方が多く保有する傾向があります

F.prausnitzii (F.プラウスニッツィ)

強力な抗炎症作用があり、健康個体の腸内では必ず検出されるほど主要な酪酸菌です。疾患のある個体であっても、この細菌が一定数検出される場合であれば状況は明るく、逆に枯渇している場合は予後が心配という、健康のバロメーターのような存在でもあります。

P.xylanivorans (P.キシラニヴォランス)

食物繊維に含まれるキシラン(多糖類)を分解し、酪酸を生み出す細菌です。牛の胃袋など草食動物の消化管の住人ですが、雑食性の犬の腸内や、健康な人間の腸内からも検出されます。ただし、犬のや腸内で増え過ぎている場合はフードの成分に偏りがある可能性があります。

Roseburia (ロゼブリア属)

人間の研究では、ご長寿かつ癌の少ない地域の住人から多く検出された事で知られています。人間に限らず、健康な犬や猫からも検出される有望な存在です。F.prausnitzii 同様に、腸内の健康指標のような存在と言えます

A.rhamnosivorans (A.ラムノシヴォランス)

健康な乳児から検出された細菌ですが、犬や猫、草食動物からも検出され、恐らくは広く哺乳類(さらには鳥類、爬虫類ら)と共生していると考えられます。他の細菌が生み出した乳酸などをエサにして、酪酸を生み出しています。

C.butyricum (C.ブチリカム)

この最近の一部の株は、宮入菌の名で商品化されています。腸内の常在菌として多くの個体から検出されます。ただしこの細菌が属するクロストリジウム属というのはウェルシュ菌やボツリヌス菌など病原性を持つものも多く、C.btyricumの一部にもボツリヌス毒素を出す株が存在します。

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猫が保有する酪酸産生菌

主だった細菌たちは犬と重複する事が多いですが、ごく一部をご紹介します。

F.prausnitzii

犬と同様に健康個体で多く検出され、不具合のある個体では減少している傾向があります。

Roseburia (ロゼブリア属)

こちらも犬と同様に、やはり健康個体で多く検出される傾向があります。また、人間の研究同様に、高齢個体から検出される事がありますが、まだ事例が少なく傾向は掴めていません。

B.fibrisolvens (B.フィブリソルベンス)

検出比率は低いですが、高齢個体で検出される事があります。この細菌は食物繊維との組み合わせで大腸癌の発生が抑制されるというマウスでの報告があります。

B.hungatei (B.ヒュンガティ)

B.fibrisolvensとは近縁種で、犬からの検出事例は多くありませんが、猫からは時々検出されます。ただし基本的には微量な存在で、腸内生態系のニッチを構成する(ただし重要な)メンバーと考えられます。

M.elsdenii (M.エルスデニー)

草食動物や、ベジタリアンの腸内から多く検出される傾向がある細菌ですが、猫の腸内からも微量に検出されます。ただしこの細菌が猫の腸内から多く検出される場合は注意が必要です。この場合多くの健康課題が表面化しており、フードに問題がある濃厚な可能性が見え隠れしています。(この傾向は犬にもやや当てはまります)

A.hadrus

この細菌は、酪酸産生菌の中では例外的にデメリットが大きく、マウスの大腸炎を悪化させたという報告があります。犬や猫、そして人間においても不具合のある個体や体調が悪い時の腸内で増えている傾向があります。一方で、多くの個体が広く微量に保有しており、常在メンバーとして普段は穏便に共存している存在でもあります。

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うさぎが保有する酪酸産生菌

実はForemaラボにはウサギの腸内細菌データも存在します。付録的に、ここに記載します。

M.elsdenii (M.エルスデニー)

上でも登場したM.エルスデニー。本来草食動物の消化管に生息する細菌のため、むしろこちらが本場。犬や猫よりも多く保有しています。

O.splanchnicus (O.スプランクニーカス)

この細菌はまだあまり研究が進んでいませんが、炎症性腸疾患や肝脂肪の個体の腸内で減少している事が分かっています。

Dialister (ディアリスター属)

人間の研究では、肥満の子供や糖尿病の子供で減少、もしくは検出されなくなっているという報告があります。このグループの中には歯周病菌の一種も含まれています。酪酸産生菌は、口腔内においては有害な事例がしばしば見られます。

その他、犬や猫の腸内から検出される酪酸産生菌は、たいていはウサギの腸内からも検出されます。

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酪酸産生菌が減った個体で見られる不具合

下痢や軟便、皮膚トラブル

犬の場合も、猫の場合も、腸内で酪酸菌の減少した個体では、下痢や軟便、皮膚トラブルといった定番の不具合を抱えています。

これは酪酸菌が減ったからトラブルが増えたとも言えますが、それ以前に酪酸菌が減ってしまう外的/内的要因があり、その結果として不具合が表面化したという方が実態に即しているのではないでしょうか。

サプリなどで対処する場合、酪酸菌そのものを補充する方法もありますが、もっと広く捉えて、酪酸菌が育つ環境そのものを作るという対処法が重要です。

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酪酸産生菌は育成か? 補充か?

酪酸菌そのものを補充するサプリ

世の中には酪酸菌サプリは多くありません。というのも、酪酸菌自体の培養が難しく、製品化ができていないという実情があります。
※”酪酸菌っぽい”触れ込みのサプリはいくつか存在します

そんな中、芽胞を形成し、製品としても加工しやすい「クロストリジウム ブチリカム(C.butyricum)」だけが「生きた酪酸菌サプリ」として流通しています。これは宮入菌という別名で知られ、「ミヤリサン」とか「ミヤBM」などの整腸剤が有名です。

環境を整え、今いる酪酸菌を育てるサプリ

酪酸菌そのものを補充するのではなく、腸内の酪酸菌を育てるサプリというものも存在します。ジャンルとしてはプレバイオティクスに該当し、Forema の「らくさん」は、まさにここにフォーカスしたサプリです。

穴の空いたバケツではありませんが、環境の悪化した腸内に酪酸菌を補充するよりも、荒れた環境を整えてあげる方が長期的にはメリットが大きいという考えです。

多くの場合、腸内環境の荒れた個体であっても数種類は微量に酪酸菌が生き残っています。環境を整え、これらを育成していく事で腸内粘膜の強化につながり、また環境改善によって他の有益な細菌たちにとっても生息しやすい状況となります。それは病原性細菌にとっては住みづらい環境という事でもあります。

酪酸菌は、外部からの補充が難しい一方、どうやら食や環境を通じて微量に体内に出入りしているようです。せっかく入ってきたのであれば、少しでも長く定着し、腸内メンバーに影響を与えてほしいところですね。

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