犬と猫の「フソバクテリア門」は増やせるか?

犬と猫の「フソバクテリア門」は増やせるか?

腸内細菌の大きな分類の中で、「フソバクテリア門(フソバクテリオータ)」というグループが存在します。人間では病原性が懸念される一方で、ペットにおいては「増やした方がいい」という誤った認識が広がっているようです。

結論から書くと、「フソバクテリア門を増やしたい」というのはあまり正しい方向ではありません。

フソバクテリア門と犬猫の健康

「フソバクテリア門」の細菌たちは、本来疾患と関連する要注意な存在です。にも関わらず「フソバクテリア門」を増やした方がいいとの誤解が広がる背景として

  • 健康な個体の方が多く保有している
  • 「フソバクテリア門」には有益な細菌もいる

という2つの"説"があるためと推察できます。

順に見ていきましょう。 

「フソバクテリア門」は健康個体が多く保有?

犬や猫の場合、「フソバクテリア門」は健康個体の方が多く保有するという説があります。これはある意味では正しいのですが、厳密には正解ではありません

犬や猫の腸内では「フソバクテリア門」は炎症によって減少する傾向があります。(つまり撃退される対象という事)

よって炎症の起きていない健全な個体の腸内からは「フソバクテリア門」が一定量検出される事が少なくありません。

が、ここで重要なのは、 「フソバクテリア門が健康に貢献している」 のではなく、 「炎症が起きていないから減っていない」 という点。

「フソバクテリア門がいなくても健康な個体はたくさんいる」のが実情です。

人間と比べると、犬や猫は「フソバクテリア門」とうまく共存しており、有害性を封じ込めているように見えます。とは言え「有益な存在」と認識するのは誤認で、「どうやって増やすか?」となってしまうのは道間違いと言えます。

※フソバクテリア門の増えすぎは犬や猫でもIBD(炎症性腸疾患)リスクにつながります。

関連記事: 犬のIBD, ステロイドが効かない時に起きている事

フソバクテリア門にも有益な細菌が存在?

「フソバクテリア門」の中にも「酪酸産生菌(らくさんきん)」が1種存在します。

「F. バリウム(Fusobacterium varium)」と呼ばれるこの細菌は、当初は抗炎症作用を発揮する有益な細菌と言及する学者もいました。

が、のちに「F. バリウム」が生み出す酪酸は細胞毒性があり、炎症性サイトカインの誘導などから潰瘍性大腸炎(IBDの一種)のリスクが増加する事が分かりました。

が、情報が古いままで止まってしまうと、「F. バリウム」=「酪酸菌」=「有益」 と、誤った道をたどる事態が懸念されます。

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フソバクテリア門と犬猫の疾患について

犬や猫は「フソバクテリア門」とうまく共存していると上述しました。とは言え限度があります。

10%を超えると危ない

個体差はありますが、「フソバクテリア門」の割合が腸内の10%を超えたあたりから状態は黄信号となります。

15%超えてくると、消化器トラブルや皮膚トラブルなど、目に見えた症状が出ている事が少なくありません。

20%を超える個体では、食糞、ひどいアレルギー症状、血便、内臓疾患、IBD診断などの事例がみられます。

30%を超える個体では、IBD、蛋白漏出性腸症、歯茎の腫れ、ひどい皮膚トラブル、クッシング症候群など、複数の疾患が同時に出ている事例がしばしば見られます。

これが「フソバクテリア門」の実態です。増やそう、というのは正しい方向ではありません。

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「フソバクテリア門」を減らすことは可能

招かれざる「フソバクテリア門」は、殲滅する必要はありませんが、ある程度抑制した方が良い場合もあります。

方法としては複数種のプレバイオティクスの併用などで良い結果が期待できます。逆に乳酸菌などはあまり活躍しない傾向があります。

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フソバクテリア門にはどんな細菌がいるか?

F. mortiferum」(フソバクテリウム モルティフェルム)」

犬や猫の腸内で最も多くみられるのが「F.モルティフェルム」です。

少数派として存在しているだけであれば、無害な常在菌にすぎません。が、上述のように10%を超えてくると挙動が変わり始めます。ただし、この細菌が増えてしまうのは、そうさせてしまう腸内環境側に問題がある場合も少なくありません。

それゆえに、整腸によって自然と抑制されていく存在でもあります。

F. nucleatum」(フソバクテリウム ヌクレアタム)

重要な歯周病菌の一種ですが、時に腸内からも検出されます。

「F.ヌクレアタム」は歯周病のみならず、大腸癌やアルツハイマー病にも関与している事がわかっており、宿主の健康にとって深刻な脅威となる可能性があります。

この細菌の増加と呼応するように「F.モルティフェルム」も増加する事例がしばしば見られます。

F. varium」(フソバクテリウム バリウム)

先にも触れたように、この細菌は細胞毒性によりIBDの原因となります。IBDは腫瘍リスクが増加するとの報告もあり、間接的には腫瘍に関与していると言えるのかもしれません。

これら以外にも「フソバクテリア門」は複数の細菌が存在しますが、どれも潰瘍や組織の壊死、歯周炎などに関与する存在です。

もう一度書きますが、わざわざ増やそうと考えるのは、正しい方向ではありません。

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