プロバイオティクスとは何か? 犬と猫の整腸との関係

プロバイオティクスとは何か? 犬と猫の整腸との関係

近年耳にすることの増えた「プロバイオティクス」という言葉。一方で耳慣れず、中身もよくわからないという人も多いはずです。ここでは、特に犬と猫の整腸も踏まえた「プロバイオティクス」について深掘りします。

そもそもプロバイオティクスとは?

乳酸菌などのプロバイオティクス

プロバイオティクス(Probiotics)とは、適量を摂取することで宿主の健康に良い影響を与える生きた微生物を指します。

一般的には乳酸菌やビフィズス菌

プロバイオティクスは、身近なものでは乳酸菌やビフィズス菌といった、いわゆる善玉菌たちを指します。重要なのは「生きた微生物」という点です。

加工品に添加され流通しているものは大半が「死菌」のため、プロバイオティクスではありません。また、「生きた乳酸菌」と明記があっても、生菌は常温だと死んでしまうため、実際にはプロバイオティクスではないという事例も少なくありません。

関連記事:猫の乳酸菌にデメリットはあるか?

身近なプロバイオティクス

身近なプロバイオティクスとして市販のヨーグルトがあります。その他乳酸菌飲料もプロバイオティクスの一例です。これら以外にも身の回りにある発酵食品の多くが本来はプロバイオティクスです。発酵大国である日本はプロバイオティクスに囲まれた環境と言えます。ただし市販品は必ずしもそうではありません。

食品として流通させる場合、静菌といって、細菌数および活動を抑制する処理が必要となります。これは微生物の暴走による事故を防ぐためには重要なものですが、プロバイオティクスとしては効能が半減するという側面があります。

その他、味噌も重要なプロバイオティクスですが、麹菌(細菌ではなく真菌)が主役であり、微生物そのものよりも代謝物のメリットが大きい製品です。また大豆発酵から派生する醤油は、現代のものは加熱処理がしてあるためプロバイオティクスではありません。

大豆でいうと納豆も重要なプロバイオティクスですが、主役となるのは乳酸菌ではなく納豆菌で、腸内に定着する部類のものではありません。一方で犬の糞便臭を抑制するという報告もあり、乳酸菌とは違った領域での働きが伺えます。

関連記事:誰も言わない!?納豆菌の真実

 プロバイオティクスの歴史

プロバイオティクスの歴史

イリヤ・メチニコフ

プロバイオティクス(Probiotics)という概念を辿っていくと、20世紀初頭のロシアの生物学者イリヤ・メチニコフ(Élie Metchnikoff)の研究にたどり着きます。彼はブルガリアの長寿者がヨーグルトを多く摂取していることに注目し、ヨーグルトに含まれる乳酸菌が腸内環境を改善し、健康に良い影響をもたらす可能性があると考えました。その後乳酸菌研究が世界中で進み、現在のプロバイオティクスに至っています。(ヨーグルトの発酵に重要なブルガリクス菌の語源はブルガリア)

概念の提唱

「プロバイオティクス」という用語自体は、抗生物質(Antibiotics)への対義語として、リリー&スティルウェル(Lilly & Stillwell, 1965)らによって使用されたのが始まりとされています。その後、1989年にはフラー(Fuller, 1989)が「宿主の健康に良い影響を与える生きた微生物」と定義し、この概念がそのまま現在の定義となっています。

プロバイオティクス(probiotics)という用語は、最初、Lilly and Stillwell(1965)が「ある種の原虫によって産生される他種の原虫の増殖を促進する物質」に対して用いられたが、その後、Parker(1974)は「宿主の腸内フローラに有益な影響を及ぼす効果のある動物用飼料添加物」をプロバイオティクスと呼び、「腸内微生物のバランスの改善に有効な微生物または物質」と定義した。さらに、Fuller(1989)はこの定義を「腸内微生物のバランスを改善することによって宿主動物に有益に働く生菌添加」と改めた。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jslab/22/1/22_26/_pdf/-char/ja

関連商品:

犬猫の乳酸菌サプリ ラクトマン犬と猫の乳酸菌サプリ「ラクトマン」

プロバイオティクスの効用

プロバイオティクスの働き

プロバイオティクスは、主に腸内環境を整える働きを持ちますが、その効果は多岐にわたります。

腸内環境の改善

プロバイオティクスは腸内フローラのバランスを整え、一部の病原性細菌らの増殖を抑制します(Ouwehand et al., 2002)。特に「乳酸菌」や「ビフィズス菌」は、短鎖脂肪酸(SCFA)の生成を促進し、腸内のpHを下げることで病原性細菌にとって不利な環境を作ります。

免疫機能の向上

特定のプロバイオティクスは、免疫系を刺激し、病原菌への抵抗力を高めることが報告されています(Salminen et al., 1999)。例えば、代表的な乳酸菌であるラクトバチルス属(Lactobacillus)やビフィズス菌(Bifidobacterium)の一部の菌株は、腸管免疫を活性化し、感染症のリスクを低減するとされています。

一方で、犬や猫においては「ビフィズス菌」はあまり保有しておらず、そこまで重要な存在ではありません。

関連記事:真相-犬と猫のビフィズス菌の話

アレルギー症状の軽減

プロバイオティクスは、アレルギー反応を抑制する効果があると考えられています。例えば乳児期のプロバイオティクス摂取はアトピー性皮膚炎の発症リスクを低下させる可能性が報告されています。(Kalliomäki et al., 2001)。

メンタルへの影響

近年、腸と脳の関係(腸脳相関)が注目されており、プロバイオティクスがストレスやうつ病の軽減に寄与する可能性が示唆されています(Dinan et al., 2013)。

関連記事:犬の分離不安..本当の理由はこれだ!

プロバイオティクスのデメリット

プロバイオティクスのデメリット

プロバイオティクスは一般に安全とされていますが、いくつかのリスクも考慮の必要があるかもしれません。

免疫不全患者への影響

重度の免疫不全患者では、プロバイオティクスによる感染症(菌血症)のリスクが懸念されます(Boyle et al., 2006)。特に集中治療室(ICU)患者やがん治療中の患者では注意が必要な可能性があります。

Foremaラボでの解析データにおいても、一部の乳酸菌やビフィズス菌が過剰に増殖し、深刻なトラブルに至ってしまった事例が複数確認されています。免疫抑制剤はIBD治療などでしばしば処方されるため、そうした際のプロバイオティクス併用は慎重に判断する必要がありそうです。

関連記事:犬と猫の胆泥症、その時腸内で何が?

過剰摂取のリスク

プロバイオティクスは過剰に摂取するとマイナスになってしまう可能性があります。過剰摂取による消化器症状(膨満感、下痢、便秘)も報告されています(Ouwehand et al., 2002)。

市場製品の品質問題

市販のプロバイオティクス製品の中には、表示されている菌株とは異なるものが含まれていたり、生菌数が不足していたりする例もあります(Temmerman et al., 2003)。この問題は、おそらくは現在進行形であり、検証手段が限られていることから自浄作用は働かない部分です。

また、国内においては有益な製品の研究データを記述すると薬機法に抵触するという法の運用の不備もあり、結果としてエビデンスのないものを売った方が(研究費も不要なので)得をするという歪な状況にあります。

参考文献

  • Metchnikoff, É. (1907). The prolongation of life: Optimistic studies.
  • Fuller, R. (1989). Probiotics in man and animals. Journal of Applied Bacteriology, 66(5), 365-378.
  • Lilly, D. M., & Stillwell, R. H. (1965). Probiotics: Growth-promoting factors produced by microorganisms. Science, 147(3659), 747-748.
  • Ouwehand, A. C., et al. (2002). Probiotic and other functional microbes. International Dairy Journal, 12(2-3), 173-181.
  • Salminen, S., et al. (1999). Probiotics: How should they be defined? Trends in Food Science & Technology, 10(3), 107-110.
  • Kalliomäki, M., et al. (2001). Probiotics in primary prevention of atopic disease: A randomized placebo-controlled trial. The Lancet, 357(9262), 1076-1079.
  • Dinan, T. G., et al. (2013). Psychobiotics: A novel class of psychotropic. Biological Psychiatry, 74(10), 720-726.
  • Boyle, R. J., et al. (2006). Probiotic use in clinical practice: What are the risks? The American Journal of Clinical Nutrition, 83(6), 1256-1264.
  • Temmerman, R., et al. (2003). Quality assessment of probiotics in the European market. International Journal of Food Microbiology, 84(2), 207-214.
  • Zhao, L. (2013). The gut microbiota and obesity: From correlation to causality. Nature Reviews Microbiology, 11(9), 639-647.

関連商品:犬と猫のプロバイオティクス

ブログに戻る