幼犬の下痢とIBD

幼犬の原因不明の下痢..。深刻なヘルプサインかも?

10年前には珍しかった、犬や猫のIBD (炎症性腸疾患)。原因不明の下痢が続き、大腸がんなど重篤な疾患のリスクも増加するとされています。

IBDには様々なパターンがありますが、今回は、2~3歳くらいでIBDに苦しむ個体(以下,若年IBD個体)のパターンについて言及します。

典型的なディスバイオシス

腸内細菌たちのバランスが崩壊する

IBDもしくはIBD疑いと診断された個体の腸内細菌は、ほぼ例外なくバランスが崩壊しています。バランスが悪いのではなく、崩壊しています。この状態をディバイオシスといいます。ディスバイオシスは、さまざまな重い疾患で頻繁に見られる事象です。

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通常は短期間では崩壊しない

腸内細菌のバランスは、通常は短期間で崩壊するものではなく、長い月日の積み重ねとして崩れていく事が一般的です。にもかかわらず、若年IBD個体はその年齢にしては崩壊の度合いが大きすぎるという特徴があります。

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幼少期からお腹が弱かった

数年後に突如始まる

ある日突然..そして原因不明

若年IBD個体の過去を掘り下げていくと、「幼少期からお腹が弱かった」とか、「下痢が続いて投薬した事がある」、といった事例が頻繁に見られます。成長とともに収まったものの、数年後のある日、突如下痢が始まり、原因が特定できず「IBDだろう」との診断が下りています。

その流れでForema に解析の依頼が来る事が多いのですが、結果は上述の通り。つまり年齢にしては壊れすぎているのです。

問題の根はずっと過去に

飼い主さんからすれば、直近の下痢から不具合が始まったように見えるものですが、腸内細菌のデータが物語っているのは、ずっと以前から不具合が起きていたであろう、という現実です。

発症した日が不具合の始まりではない

発症という概念の欠陥

西洋医学では、発症した日が始まりとして記録されるため、10日前に下痢が始まったのであれば、そこがIBDのスタートとなります。(診断日が発症日、という事務的な場合も..)

ところが、多くの腸内細菌データを俯瞰してみると、実際の始まりは幼少期の下痢が続いた頃に遡る可能性が浮上します。

問題の根は、さらに過去へ!?

一方で幼少期にIBDが始まるというのもおかしな話です。2~3歳でのディスバイオシスすら早すぎるのに、生後数ヶ月がIBDの始まり、という論は矛盾があります。

ここで本質を追求すると、問題の根はさらに過去に遡る事が分かります。

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母体の不具合と子の不具合

腸内細菌の不具合は引き継がれる

母体の問題

「母体のストレスや炎症が子に与える影響」や、「母体の腸内細菌と子の腸内細菌の関係」、さらには「授乳中の母親のストレスや高脂肪食と子の肥満や腸内細菌の関連」など、母子間の研究はマウスと人間の双方で多くの論文が発表されています。

不具合の連鎖

上記研究の内容をを簡潔にまとめると、母体の炎症や不具合、腸内細菌のバランスの問題は、多くの場合子に引き継がれ、そして成長後も継続します。

母体がディスバイオシスの場合、子もディスバイオシスを引き継ぐ可能性がとても高いという事です。

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人間界でも、ペットの間でも起きている

遺伝ではなく腸内細菌

人間界では、母親がアレルギー疾患の場合、子も早い段階でアレルギーを発症し、母親にメンタルの問題がある場合、子も同様の問題を抱える事例がしばしば多く見られますが、これはマウスにおいても再現されています。そしてこの不具合には腸内細菌の問題が大きく影響しています。(精神疾患と腸内細菌は大きな関連があり)

母体にまで遡る不具合の根

母親の腸内細菌トラブルがそのまま子に引き継がれるのであれば、若年IBD個体が幼少期に繰り返していた下痢は、母親の不具合の複製だった可能性があります。

事実、繁殖引退犬の腸内細菌組成がディスバイオシスという事例はしばしば見られ、それと同様の組成をした若年個体も多く見られるのが現実です。(若年でシニアのような組成というパターンもある)

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抗生物質がバランス崩壊を引き起こす

回を重ねることで回復が困難に

ダメージの蓄積

感染症治療において重要なお薬である抗生物質は、腸内をはじめとする体内の細菌たちに大きなダメージを残します。通常は時間とともに回復しますが、繰り返しの投薬によって少しずつ回復が難しくなっていきます。

ダメージはリセットされない

母体への投薬履歴はそのままダメージの履歴となり、リセットされずに次の世代に引き継がれるということを、知っておく必要があるでしょう(※)。

※自然界やかつての村社会では、母乳や群れの他の個体(兄弟や親類など)からの細菌授受である程度リカバリーできたと考えられます。

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