動物病院でしばしば耳にする「らせん菌」。今回は「らせん菌」の素性についてお届けします。
らせん菌とは何か?
カンピロバクター属という細菌
らせん菌は「カンピロバクター属」の中で、下痢などのトラブルを起こす細菌の通称です。文字通り螺旋(らせん)状をしているため、「らせん菌」と呼ばれます。
一般的には
- C. ジェジュニ(Campylobacter jejuni)
- C. コリ(Campylobacter coli)
の2種を指します。
「カンピロバクター属」というのは、かの有名なピロリ菌(ヘリコバクター属)とも比較的近縁のグループで、大きな分類では「シュードモナドータ門(旧名称:プロテオバクテリア門)」に属します。
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スピロヘータとは別物
「らせん状の病原性細菌」には、主に口腔から検出される「スピロヘータ門」というグループが存在します。
中でも有名なのは
- 歯周病菌の「T. デンティコラ(Treponema denticola)」
- 梅毒で知られる「T. パリズム(Treponema pallidum)」
で、ともに感染源として注目すべき存在ですが、下痢の原因として診断される「らせん菌」とは別物です。
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らせん菌は治せる?
通常は時間と共に回復
らせん菌による下痢は一時的なものである事が多く、通常は時間と共に回復します。動物病院では、症状がひどい場合にマクロライド系の抗生物質が処方される事が多いようで、通常は1週ほどで改善に至ります。
改善しないとすれば、それは「らせん菌」の問題というより、何らかの事情で宿主が弱体化している事に由来するのかもしれません。
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大腸がんの転移に関連?
2024年11月の中国での研究(※)においては、らせん菌(C. ジェジュニ)が大腸がんの転移に関与しているといった趣旨の内容が報告されています。らせん菌が産生する毒素(CDT)ががん転移を促進するようです。(らせん菌がコロニーを形成した腫瘍細胞は他の組織への浸潤が進む)
※中国広東省中山大学バイオメディカルイノベーションセンターhttps://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1931312824004372?via%3Dihub
腸内細菌解析における「らせん菌」の事例
慢性の下痢や消化器トラブル??
Foremaにおいて、腸内細菌の解析現場で見られる不具合の大半は、慢性の下痢/消化器トラブルです。が、これらの個体からは「らせん菌」が検出される事はほとんどありません。
一方で、「過去にらせん菌の治療をした事がある」という個体にはしばしば遭遇します。そういう個体は「らせん菌」だけではなく、様々な消化器トラブルで何度も病院にお世話になっているという共通の経歴があります。そして、腸内細菌のバランスが大きく崩れている事が大半です。
腸内細菌の組成が崩壊している状態はディスバイオシスと呼ばれ、様々な疾患に関連します。こういう状況で「らせん菌」の侵入があった場合、献上個体よりも悪化しやすい懸念があります。様々な病原性細菌に対して脆弱な状況が慢性化している可能性があります。
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過去の治療が後年の不具合に?
抗生物質は病原性細菌を駆逐する一方で、本来無害な常在菌や、有益な細菌グループにもまとめて打撃を与えます。通常は時間と共に回復しますが、回復に失敗する個体がしばしば見られます。そういう個体は、別の感染症にもかかりやすく、そこで再び抗生物質の投薬に至ります。
2度あることは3度あり、この繰り返しにより、数年後に下痢が止まらない、アルブミンの数値が大きく低下している、血便が始まった、などの症状が表面化します。
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「らせん菌」が原因なの?
後年になって深刻な消化器トラブルが起こる場合、過去の「らせん菌」治療が問題だったのでしょうか?
断定はできませんが、一部は正解かもしれません。
ただし、深刻な消化器トラブルのある個体は、過去の治療履歴が1回ということは少なく、数度の投薬が蓄積して大事にたったようなケースが目立ちます。逆に、1回のらせん菌感染で重症になるようなケースは、そもそもの個体側に問題があった可能性が否定できません。
腸内細菌解析の現場から見えてくるのは、生まれながらにして腸内細菌バランスが崩壊している個体が一定数存在しているという現実であり、それは繁殖犬である母体の問題に遡る可能性を強く示唆しています。
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