腸内細菌が宿主の健康に大きな影響を与えることが詳しく分かってきたのは、21世紀に入りしばらくたってからの事です。
では、腸内細菌を調べれば病気の有無やリスクが分かるのでしょうか?
結論から記載すると、リスクの予測や判定はほぼ可能と言えるでしょう。
ただし1つ1つの疾患を、ピンポイントに判定するという趣旨ではありません。一体どういう事でしょうか?
腸内細菌組成から疾患が見える
健康個体と疾患個体では腸内細菌組成が異なる
疾患のある個体の腸内細菌組成は、健常な個体とは異なった特徴を持ちます。
これは腸内細菌から、関連しそうな疾患がいくつか絞り込めるという事でもあります。
特定の細菌が直接関与する感染症の場合、論は明快です。一方で、例えば深刻な食物アレルギーや慢性の皮膚疾患、そしてIBD(炎症性腸疾患)といった原因不明の疾患においても、実は腸内細菌にくっきりと特徴が現れます。
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IBDに関与する細菌たち
例えば、原因不明とされながらも特に21世紀に入ってから急増しているIBD(炎症性腸疾患)。2010年以降は犬や猫の間でも増加しています。ただし原因はわかっていません。
ところが、IBDと診断された個体は特徴的な腸内細菌組成をしています。例えば、プロテオバクテリア門グループや、ストレプトコッカス属の過剰な増加、一部のルミノコッカス属の極端な増加などは頻繁に見られるパターンです。(犬や猫と人間の腸内細菌組成は、IBDにおいては共通項が多いように見えます)
そして、該当の細菌グループを抑制する事で症状が緩和される事例は多くあります。
ただし、IBDと診断された個体においても、腸内細菌組成は10パターン前後はあり、厳密にはそれぞれが異なる疾患という可能性があります。(※IBDは炎症に由来する慢性腸疾患の総称)
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悪性腫瘍は判定できるか
大腸がんはある程度見える場合がある
疾患リスクがある程度見えるのであれば、悪性腫瘍も予測できるのでしょうか?
場所にもよりますが、少なくとも大腸がんにおいては、関連する細菌たちの特定や、腫瘍マーカーとして参照できる細菌たちが存在しています。膵臓がんや肝臓がんにおいても発癌と進行で増加する細菌たちがいくつか報告されています。
これらの推移や状況を俯瞰していくことで、リスクが高まっているかどうかは(完全ではないにしろ)ある程度の把握が可能と言えます。
ただし、ここに難しい問題があります。
腫瘍判定の個体の難題
腸内細菌組成から、悪性腫瘍およびその他疾患を予測するにあたり、問題があります。それは、複数の疾患が同じような腸内細菌組成を示すということです。
例えば、
- 酷い食物アレルギーと悪性腫瘍
- 下痢や消化器トラブルと悪性リンパ腫
- 腎炎や膵炎とIBD
- 分離不安と皮膚疾患
などなど。
この場合、例えばアレルギーリスクと悪性腫瘍のリスクが混同されてしまう可能性があります。
が、逆に捉えるならば「疾患の根は同じところにある」という見方もできます。
事実、アレルギー疾患の背景にある慢性的な炎症が、やがて腫瘍に移行していく可能性は複数の文献で言及されていることでもあります。
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病気の根は同じ
同じような腸内細菌組成にも関わらず、そこから派生していく疾患には複数のパターンが見られます。
一見複雑に見えますが、実は原因は数個程度しか無く、表面化していく過程に個体差があるだけ、と捉えていくことも可能ではないでしょうか。
このような背景を前に、私達が取り組むべき事柄は「整腸と炎症抑制」という、きわめて初歩的かつ真っ当な施策となります。