下痢の原因にも??犬と猫の「芽胞菌(がほうきん)」豆知識

下痢の原因にも??犬と猫の「芽胞菌(がほうきん)」豆知識

動物病院の便検査で「芽胞菌(がほうきん)がいますね..」と言われた事がある飼い主さんも少なくないはず。時々耳にする芽胞菌とは一体なんなのでしょうか? ここでは芽胞菌について深掘りしてみます。

芽胞菌とは総称である

芽胞を作る細菌たち

芽胞菌というのは、そういう名前の菌がいるのではなく、「芽胞を作る細菌たちの総称」です。

芽胞(がほう)というのは、一時的に休眠するための殻/バリアのようなもの。一部の細菌たちは、生存環境が厳しくなると芽胞を形成し、その中にこもって長期間休眠する特性を持っています。

この特殊機能を持つ細菌たちが、まとめて芽胞菌と呼ばれています。

芽胞菌の検出は問題?

動物病院の便検査で「芽胞菌が検出された」とか「芽胞菌が多い」といった指摘をされる事があります。

一方で、芽胞菌だからと言って必ず問題があるわけでもありません。そもそも大半の犬や猫は健康個体であっても微量に複数種の芽胞菌を保有しています。

問題があるとすれば、健常個体と比較して明らかに過剰な検出があるなど、異変が起きている事が問題と言えます。

芽胞菌の存在そのものを悪と捉えていると本質を見失います。

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芽胞菌にはどんな細菌たちがいる?

ボツリヌス菌

芽胞菌の中でも有名なのは、自然界最強の毒素を産生するボツリヌス菌です。沸騰でも死なないため、強敵です。レトルト殺菌が121℃設定なのは、ボツリヌス菌を死滅させるためです。

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ウェルシュ菌

腐敗菌として有名なウェルシュ菌も芽胞を形成します。動物病院で芽胞菌の存在を指摘された場合、可能性が高いのはウェルシュ菌やその近縁種だと考えられます。

事実、病院で芽胞菌を指摘された個体の腸内細菌を解析してみると、多くの場合はウェルシュ菌もしくはディフィシル菌の検出が増加しています。

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ディフィシル菌

C. ディフィシルという細菌は、薬剤耐性菌として要注意の存在です。特にアメリカでは、この細菌の感染症で毎年何万人も死んでいるという、恐ろしい存在でもあります。

ただし、この細菌自体は腸内の常在菌の1つでもあります。過剰な抗生物質の使用によって薬剤耐性を持ち、突出して増加したり、変異によって毒性が高まる事で驚異となります。

宮入菌

ミヤリサンなどでも知られる宮入菌は、酪酸菌の1種としても知られています。正式名称はC. ブチリカムというもので、実はウェルシュ菌やボツリヌス菌と同じクロストリジウム属の細菌です。C. というのはClostridiumのCです。

この細菌も芽胞を形成する性質があり、よってサプリやフードなどの加工品に使用できるという実情があります。逆にいうと、それ以外の酪酸菌は芽胞を形成しないため、プロバイオティクスとして製品化されているものはありません。

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セレウス菌

セレウス菌は食中毒の主要な原因になる芽胞菌で、野に広く存在する普遍的な存在でもあります。上述のクロストリジウム属とは分類が大きく異なり、「バチルス属」というグループに属します。

一般的には、犬や猫の腸内から検出されることは多くありませんが、ごく稀に増加している事例が見られます。

納豆菌

納豆菌も芽胞菌の1種です。上記セレウス菌と同じバチルス属に分類されています。もともと腸内のような閉鎖/無酸素環境に生息している存在ではないため、仮に納豆を多く食べたとしても腸内で増加するものではありません。

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有胞子性乳酸菌

サプリなどの広告でしばしば目にする有胞子性乳酸菌も芽胞菌の1種です。有胞子性乳酸菌というのは造語であり、正式な名前ではありません。芽胞乳酸菌だとさすがに誤解をまねきそうなので、通称としての別名が登場したのだと考えられます。

この細菌も芽胞形成の能力があることから、サプリやフードといった加工品に、生きたままでの使用が可能となります。セレウス菌や納豆菌と同様にバチルス属に分類されていましたが、近年の再分類でワイツマニア属という別のグループに再分類されました。

芽胞菌まとめ

このように、芽胞菌といっても様々なものが存在します。芽胞菌=悪 と短絡的に捉えるのではなく、何が、どれくらい、なぜ増えてしまったのかを、文脈を踏まえながら冷静に考える必要があります。

また、芽胞菌の対策として抗生物質を盲信しすぎると、一部が生き残って薬剤耐性を持ち、逆襲されることもありますので、要注意です。

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