ボツリヌス菌と芽胞菌(がほうきん)
(最終更新日: )食中毒の原因菌として「ボツリヌス菌」という名前を耳にした事がある人も多いのではないでしょうか?
今回は、何となく身近な、そして恐ろしい存在であるボツリヌス菌と芽胞(がほう)についてのお話です。
自然界最強の毒素
1000万人を殺せる!?
ボツリヌス菌の生み出すボツリヌス毒素は1gで1000万人を殺せるとされており、自然界最強の毒素と呼ばれています。
1歳未満の乳児にハチミツを与えてはいけないのは、微量に混入する可能性のあるボツリヌス菌/毒素が要因です。
また、レトルト殺菌が100℃ではなく120℃で設定されるのは、100℃では死なないボツリヌス菌らの存在があるからです。
万が一の時にダメージが大きいため、ボツリヌス菌の対策は特に念入りに行われています。
関連記事:敵か味方か?アッカーマンシア属
100℃では死なない
上述のように、ボツリヌス菌は100℃では死にません。この耐性のカギは「芽胞(がほう)」です。ボツリヌス菌をはじめとする一部の細菌たちは、生息環境が悪化した際に芽胞(がほう:バリアのような殻)を形成し、その中で休眠状態に入ります。
この芽胞は大変強固で、100℃では完全に殺す事ができません。それ以上の高温で一定時間加熱する事でようやく殺菌が可能になります。
動物病院で時々耳にする芽胞菌(がほうきん)とは、こうした芽胞形成グループを指します。
ボツリヌス菌の実態
近縁種の芽胞形成菌たち
芽胞を形成する能力は、ボツリヌス菌以外にも、ウェルシュ菌やセレウス菌といった、食中毒原因菌で見られます。
ウェルシュ菌はボツリヌス菌とは近縁種(クロストリジウム属)で、セレウス菌は有胞子性乳酸菌(バチルス属)と近縁種です。
有胞子性乳酸菌が生きたままドッグフードや加工品に使用できるのは、芽胞形成能力があるからです。
また、薬剤耐性菌として知られるディフィシル菌(※)も芽胞を形成し、ボツリヌス菌らと比較的近縁種にあたります。
※クロストリディオイデス属。以前はボツリヌス菌と同じクロストリジウム属に分類されていました
関連記事:そこにある脅威?ウェルシュ菌の話
ボツリヌス菌は犬や猫の腸内にも
そんなボツリヌス菌は、実は犬や猫の腸内でも微量に検出されます。もちろんいるだけで毒素を出しているわけではなく、一定量に増加した段階で脅威となり始めます。
ボツリヌス菌は、時に腸内で増加する場合がありますが、実は単独で増殖している事例はほとんど見られません。大抵の場合、ウェルシュ菌やディフィシル菌などの近縁種と徒党を組むように増殖しています。怪しい結束です。
そして、この怪しく不穏なメンバーたちのなかに、酪酸菌として知られる「C.ブチリカム」がしばしば見られます。
関連記事:下痢の原因にも??犬と猫の「芽胞菌(がほうきん)」豆知識
関連商品:犬の酪酸菌を育成するサプリ
C.ブチリカムという存在
C.ブチリカム(Clostridium butyricum)は、実はウェルシュ菌やボツリヌス菌と同じ「クロストリジウム属」に分類され、芽胞菌の一種でもあります。そして一部の株はボツリヌス毒素を出す事が知られています。
世の中には"生きた"酪酸菌サプリが多々存在しますが、採用されている酪酸菌は「C.ブチリカム」ただ1種です。芽胞を形成するという特性があるからです。(加工や加熱に耐え製品化しやすい)
尚、美容方面で使用されるボトックス注射は、ボツリヌス毒素を大幅に希釈して作られています。
自然界は複雑に入り組んでおり、さまざまな側面が存在します。
私たちやペットの健康と疾患は、こうした複雑さの延長線上で成り立っているのだと分かりますね。
関連記事:よく分かる! 犬と猫の酪酸菌のお話
関連商品:犬のオリゴ糖サプリ
よくある質問
検査でボツリヌス菌が検出されました。危険な状態ですか?
微量であれば、犬や猫の腸内から通常検出されるものです。いるだけで毒素を出しているわけではなく、一定量まで増えた段階で脅威になります。ボツリヌス毒素は1gで1000万人を殺せるとされる自然界最強の毒素ですが、検出されたこと自体と、増えていることは分けて考える必要があります。
芽胞菌(がほうきん)とは何ですか?
環境が悪化したときに芽胞という強固な殻を作り、その中で休眠できる細菌たちのことです。この殻は100℃では完全に殺せず、レトルト殺菌が120℃で設定されているのはそのためです。1歳未満の乳児にハチミツを与えてはいけないのも、混入しうるボツリヌス菌が理由です。動物病院で耳にする芽胞菌は、このグループを指します。
酪酸菌サプリでよく耳にするC. ブチリカムは、ボツリヌス菌の仲間なのですか?
同じクロストリジウム属で、芽胞菌の一種です。一部の株はボツリヌス毒素を出すことが知られています。生きた酪酸菌サプリに採用されているのがこの1種だけなのは、芽胞を形成するため加工や加熱に耐え、製品化しやすいという事情によります。有益な面と不穏な面が同居している存在です。
ボツリヌス菌だけが増えることはありますか?
単独で増えている事例はほとんど見られません。大抵はウェルシュ菌やディフィシル菌など近縁種と徒党を組むように増殖します。そしてその顔ぶれのなかに、酪酸菌として知られるC. ブチリカムがしばしば見られます。1菌種だけを見るのではなく、どういう組み合わせで増えているかを見る必要があります。
加熱すれば食材のボツリヌス菌は死にますか?
通常の加熱では死にません。芽胞を作るため100℃では完全に殺菌できず、それ以上の高温で一定時間加熱して初めて可能になります。同じく芽胞を作るウェルシュ菌やセレウス菌も食中毒の原因になります。なお、有胞子性乳酸菌が生きたままドッグフードに使えるのも、この芽胞形成能力によるものです。

Forema Labo チーム
腸内細菌や、環境中の微生物群集の解析~研究を行っています。Forema ラボでの数千件の解析データを元に、犬猫の腸内細菌と健康の関係、腸内環境と全身の健康との関係、そして自然界や生態系の話を発信しています。
チームの詳細はこちらRelated Posts
-

自閉症と硫化水素,デスルフォビブリオ属
次世代型シーケンサーの登場によって、過去10数年で腸内細菌の研究が飛躍的に進んでいます。その中で、腸内細菌と自閉症(以下ASD)の関係の詳細が報告されてから早10年以上が経過します。ここでは、自閉症に関連する腸内細菌の1つであるデスルフォフォビブリオ属(Desulfovibrio)について記載します。
-

犬と猫の乳酸菌サプリ まとめ
2,000頭近い犬と猫の腸内細菌を解析してきた知見を元に、犬と猫の乳酸菌サプリ、乳酸菌入りの製品についてご紹介します。
-

ドッグフード/キャットフードの数値は本当に重要?
健康や食事を数値で管理しようと取り組む方は少なくありません。重要な取り組みです。一方で、数値に過敏になり、数値に追われているような事例もしばしば見られます。数値が目的になると、本質を見失う可能性があります。







