ウサギの腸内細菌についての関心が高まっています。
ここでは、Foremaラボでの腸内細菌解析の実例を元に、ウサギの腸内細菌及び、疾患とも関連するプロテオバクテリア門について記載します。
ウサギの腸内細菌の概要
人間と共通する細菌も多く保有
ご存知のように、ウサギは草食動物です。草食動物ならではの細菌が検出されると思われるかもしれませんが、実は大半は人間と共通する腸内細菌グループで構成されています。いや、雑食性の人間が、ウサギと共通する部分を多く残していると表現した方が妥当かもしれません。
その上で、土に由来する細菌たちが人間よりも多く検出されるのが、ウサギの腸内細菌の特徴の1つと言えるかもしれません。
草食動物特有の細菌たち
ウサギの腸内細菌の中で、草食動物ならでは、というグループがいますので、いくつかご紹介します。
豊富な酪酸産生菌(らくさんきん)
人間にとって有益な酪酸産生菌は、野菜をよく食べる人から多く検出されます。当然ながら、草食動物からも多く検出があります。例えば..
- ルミノコッカス科 / F.プラウスニッツィ
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宿主にとって有益な働きをすることの多いルミノコッカス科の細菌、中でも「F.プラウスニッツィ」と呼ばれる酪酸産生菌の一種は、ウサギの腸内からも一定量検出されます。この細菌は強力な抗炎症作用があり、草食動物のみならず、犬や、完全肉食性の猫からも検出されます。
- ブチリシモナス属など
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このグループも酪酸産生菌として知られていますが、通常は人間や犬/猫の腸内からはほとんど検出されることはありません。一方で野生の鹿やヌートリア、ヤギなどからは検出があり、草食動物に由来する酪酸産生菌と言えます。
- ユーバクテリウム属
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酪酸産生菌の中でも比較的古くから知られる存在ですが、人や犬/猫の腸内からはあまり検出されません。一方で、ウサギの腸内からは比較的高頻度で見つかる存在です。
いわゆる痩せ菌
- アッカーマンシア属
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人間界では痩せ菌ともてはやされる事の多いアッカーマンシア属は、ウサギをはじめ、草食動物の腸内から豊富に検出される事例が多く見られます。
- クリステンセネラ科
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同じく人間界では痩せ菌として注目されながらも、ほとんどの人が保有しない「クリステンセネラ科」の細菌も、ウサギの腸内からは頻繁に検出されます。
土に由来する細菌
- 破傷風菌
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破傷風菌はクロストリジウム属というグループに分類され、土中に微量に存在します(汚泥などでは検出が増加します)。これが何らかの事情で傷口に入ると破傷風を発症し、大変なことになりますが、本来は生態系の中の微細な常在メンバーです。
人間や犬/猫の腸内では滅多に検出されることはありませんが、ウサギの腸内からは時々検出されます。
- モリクテス綱
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この細菌グループはテネリクテス門という特殊なグループに分類されており、昆虫の腸内細菌なども複数含まれています。ウサギの腸内からは比較的よく検出されますが、生牧草などに由来しているのではないかと考えられます。もちろん適量保有していることはむしろ自然な状況と言えます。
ウサギの病原性細菌
ウサギの腸内でよく検出される病原性細菌としては、上述の破傷風菌の他、特に「プロテオバクテリア門」というグループが重要な存在と言えます。
プロテオバクテリア門って何だろう?
プロテオバクテリア門というのは、サルモネラ菌や大腸菌、赤痢菌などを含む大きなグループで、人間や動物たちにとっても病原性を持つものが多く存在します。
ここでは、ウサギの腸内から検出されるプロテオバクテリア門の中でも、主だったものをご紹介します。
ウサギの腸内で見られるプロテオバクテリア門(抜粋)
- シュードモナス属(腐敗菌の一種)
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お肉などが腐敗するとき、主要な役割を果たしているのが「シュードモナス属」というグループです。自然界における重要な分解者ですが、これが腸内で増えると食中毒や消化器トラブルの原因となります。
草食性のウサギの腸内では、通常は微量な検出にとどまります。
とは言え、少し古くなった生牧草からもまとまった量が検出される事がありますので、注意が必要です。
- サルモネラ菌
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人間界では悪名高いサルモネラ菌もプロテオバクテリア門の細菌です。腸内が正常であれば、通常はウサギからまとまって検出されることはありません。
- 大腸菌
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誰もが耳にしたことのある大腸菌もプロテオバクテリア門の細菌で、赤痢菌やサルモネラ菌と同じエンテロバクター科というグループに分類されています。やはりウサギの腸内では、本来であればごく微量の存在です。
- アエロモナス属
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自然界、特に水中や水辺などに広く存在する普遍的な細菌です。どこにでもいる一方で、宿主が弱ると病原性を発揮することがあります。犬や猫、ウサギの腸内で時々見られます。増えすぎると消化器トラブルに関与する可能性があります。
- バークホルデリア科
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自然界、特に昆虫の腸内などから検出されるグループです。飼い犬や猫などからは検出が少ない一方で、ウサギからはしばしば一定量の検出が見られます。宿主の弱体化によって病原性を持つ事があります。
プロテオバクテリア門は減らせるの?
プロテオバクテリア門が増えすぎてしまったら..
上記で紹介した細菌たちを含め、「プロテオバクテリア門」の細菌たちが検出されること自体は問題ありません。むしろ正常です。ただし、本来のウサギの腸内では1%〜多くてもせいぜい5,6%程度である事が一般的です。それが10%〜以上の増加を見せている場合、何らかの不具合に繋がってしまう可能性があります。
抗生物質という選択
プロテオバクテリア門をはじめ、病原性細菌が増えすぎてしまった場合、動物病院では抗生物質が検討される場合があります。
ただし抗生物質は、病原性細菌だけではなく、本来は有益な常在菌たちにまでまとめてダメージをあたえてしまうため、その後の腸内生態系に深刻な打撃を残してしまう可能性があります。
よって、本来であれば、どうしても必要な時にだけ使用されるのが抗生物質という選択肢であるべきです。
プレバイオティクス
抗生物質以外の選択肢としては、プレバイオティクスは有益です。
プレバイオティクスにはオリゴ糖やイヌリン、レジスタントスターチなど複数の種類が存在します。
プロテオバクテリア門の中でどのグループが増えているのかにもよりますが、一般的にはプレバイオティクス全般はウサギにとっても有効な選択肢と言えます。
ただしこれらは、ウサギ本来の食事の中から自然と摂取されているべきものです。もしも欠乏している可能性があるのであれば、一度今の食事内容やフードの品質表示を精査し直す必要があるかもしれません。
プロバイオティクス
主には乳酸菌です。乳酸菌製品には死菌と生菌がありますが、プロバイオティクスというのは生きた細菌(生菌)や酵母を指します。乳酸菌は250種類以上が存在しますが、多くは植物や野菜、土中や周辺環境に普遍的に存在しています。
最も一般的なラクトバチルス属や、植物に由来するラクチプランチバチルス属は、ウサギにとっても自然な選択肢と言えます。
Foremaラボでも上記の両乳酸菌を使用し、高齢ウサギの整腸に取り組んでいます。
ただし、乳酸菌は直接的にプロテオバクテリア門を減らす働きをするわけではありません。腸内全体の多様性向上や抗菌活性によって、環境整備に貢献する存在と捉えるのが現実に近いといえます。
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ウサギの腸内細菌 総括
ウサギの腸内細菌研究は、人間に比べるとほとんど進んでいません。
一方で、多様性が重要である点、酪酸産生菌や乳酸菌といったグループは人間同様に重要という点、プロテオバクテリア門をはじめ、一部の病原性細菌は増え過ぎによって脅威となる点など、多くの共通部分があります。
まずは全貌を知り、適切な整腸に取り組んでいく事で、本当の意味での健康長寿につながっていくのではないでしょうか?